福島県教育センター所報ふくしま No.21(S50/1975.6) -004/025page

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 4. 中学教材の三編の詩と入門指導事項

 生徒の興味・関心をそこなわず,漢文への親しみをもたせることに入門指導の力点をおくあまり,本来必要な訓読などの入門の指導事項をまとまったものとして生徒に認識させることを忘れたのでは何もならない。そこで入門指導としてとりあげた詩にどんな指導事項があるかとり出し,整理をしておく必要があろう。以下,光村図書「中等新国語」の教材である唐詩三編についての指導事項をあげてみる。

絶  句          杜  甫
漢字・漢語 逾々、看々(おどり字)、然=燃(音通)、欲・是・何日
 構  造     逾々  
(主)(述)(主)(修)(述)
         (被修)
第1句、第2句対句、1句を2字と3字にわける。 然・年(押韻)
 送りがな 碧ニ シテ ・青ク シテ ・然エン (助詞)白ク・過グ(用言の語尾)然 エン ト帰年 ナラン (助動詞)、何レ・是レ(その他)
 返 り 点
訓読の特殊文字
 そ の 他 詩形(五絶)について、江と気候風土についてーー地図,書き下し文・口語訳,主題・題材・背景・色彩美・作者
贈 汪倫        李 白
漢字・漢語 将ーー將 声ーー聲 (新旧字体) 岸上・桃花(修ーー被修)声・情(押韻)
 構  造 李白         欲 行
(主) (述)(補) (修) (述)
           (被修)
1句を2字,5字にわける(1,2,4句),1句を4字,3字にわける(3句) 
 送りがな 一・二,レ
訓読の特殊文字 不,欲
 そ の 他 詩形(七絶)について,李白と王倫の間がらについて,桃花潭について,書き下し文,口語訳・主題・題材・背景
竹里館         王 維
漢字・漢語 独ーー獨,弾ーー彈,来ーー來 (新旧字体) 嘯,琴(部首) 弾琴(被修 修) 裏(和漢異義)  
 構  造       幽 篁 裏
(修)(被修)     (補)   
       (修) (被修)
 返 り 点 一・二,レ
訓読の特殊文字
 そ の 他 竹里館について,書き下し文,口語訳,主題・題材・背景

 これだけのことがらを,すべてにわたって指導すべきだという意味では,もちろんない。詩の形式的な面について,平灰はもとより,押韻・構成(起・承・転・結)など,ここで詳説することは避けるべきであろう。「是」,「欲」の意味用法,漢文の構造について,深入りすることは賢明ではない。まして,詩は破格が多く,構文的には,むしろ,入門教材としては不適なものとせざるを得ない。ここで返り点にふれることが指導上さけられないとすれば「欲レ然」,「欲レ行」,「不レ及」,「不レ知」を例として,いわゆる「鬼と(ヲ,二,ト)出あったら帰れ(返れ)」の場合以外の特殊文字「返読文字」に触れさせることぐらいであろう。

 また,これだけでは,再読文字,句読点,置字,終尾詞のすべて,返り点,返読文字の多くの部分の指導が欠けるという心配もでてくるかもしれない。しかし,そもそも,この入門指導の意図は,中学教材としてとりあげられている唐詩の代表作を高校漢文の入門指導教材として再び登場させることによって漢文学習への興味を誘発しようとするところにあるのであるから,訓読の技術的な面は,中学校での学習を思い出したがら唐詩を味わわせていく過程で必要最小限とりあげれぱよいと思うのであるがどうであろうか。「絶句」の望郷,「贈汪倫」の友情,「竹里館」の悠々自適の境,は中国の詩の代表的な題材を示し,人間普遍のロマンチシズムとして理解しやすい情感が,高い詩精神とすぐれた技巧とに支えられて,あふれているこれらの詩は,生徒の意欲をわきたたせるにちがいないし,それを大切にしたいのである。

 5. おわりに

 高校における漢文の入門指導では,訓読の記号や必須知識について,はじめに解説しておく演繹的方法よりも,実例のなかから,漢文の構造や訓点の必要性などを認識する帰納的な方法のほうが,生徒の学習意欲を高めることができるとすれば、中学で既習の絶句をとりあげることが効率的であることをのべてきたが,同時にそれは,中学校と高校の古典教育のつながりを求めることでもあろうと思うのである。


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