福島県教育センター所報ふくしま No.21(S50/1975.6) -006/025page
以上の諸点に留意をしながら,意識的に学習活動を統制し,教材を提示し,生徒の活動を喚起し,評価・反省を加えていくならば,生徒のわかろうとする意欲にこたえることになり,さらには,その意欲を持続・発展させていくことにたろう。ここで,「わかる指導」についてもう少し具体的に述べてみたい。
(1) 学習目標の明確化
生徒が学習をする際に一番困るのは,一体何を学習するのか,その目標が明確にされていない時である。これを防ぐための手だては, 1 学習事項をしぼって精選し,(適量化), 2 その精選された学習事項を理解の段階までにとどめておくものと,運用の段階にまで高めるべきものとを区別し(適量化・系統化), 3 そのおのおののものについての学習行動を生徒に具体的に明示することである。(具体化)
たとえば,「単語は勉強しておくように」ではなく,「5〜7ぺ一ジにある新出語,post,office,drive・・・.等の15の単語については,その目本語の意味と綴りをしっかりと覚えておくこと。Halloweenという単語については,それがどんな日なのか,その内容を日本語でいえるようにしておくこと。7分間で10問出題するから,そのうち6問以上の正解をすること」などのように,学習目標を明確にし,さらに,その学習目標に対する生徒のとるべき行動とその行動の到達規準を明示したい。このように学習目標を明確にしておくことは,特に学習のおそい生徒にとっては大きな助けになる。
(2) 学習のステップ
学習の進度には個人差があることをまず念頭におくべきである。この学習におげる進度の個人差を無視することは,「わかる」ことを妨げる大きな原因になる。学習のプログラムがきちんとしていれば,遅いか早いかの違いはあっても,学習は成立するわけであり,特に英語学習は中学の段階になって初めて導入されるものであることを考えると,個人差に応ずることのできるプログラムの作成が要求される。
たとえば,生徒は,“does"の用法,受動態、完了形,関係代名詞などの文構造の理解については,しばしぱ困難を感ずるものであり,このような箇所の指導には,部分的にプログラム学習などを導入することは効果的であろう。
また,学習のステップは,「易→難」へとすすむということを鉄則としたい。とくに英語学習にあっては,四技能のおのおのについても学習段階が階層をなしており,操作的な段階(manipu1ative phase)から相互の意思疎通の段階(communicative phase)へとなだらかに,しかも,機敏に発展していくように留意したいものである。
操作的な段階にあっては,模傲(mimicry)と暗諦(memorization)が中心的狂ものになるが,「わかる」ためには,意味のは握をふまえた上での模倣であり,暗踊でたければならない。意思疎通の段階には,日常の平易なcommunicationから総合的な価値判断を含んだ高度なcommunicationがあるけれども,中・高の英語学習にあっては,前者の平易なCommunicationの段階に重点をおいて展開をしていくことが実際的であり,効果があろう。
また,操作的な段階では,系統的な学習を軸に,言語構造などにも注意をはらい,より正確な英語の体得に努めることが効率約である。一方communicationや運用の段階にあっては,日本人の一般的な特性も考え,あまり細かな発音や文法上の規則にとらわれ過ぎることなく,まず片言でもよいから,英語で表現をしてみようという,英語を用いる前提的な気分や気構えを養い,授業を生き生きとしたdynamicなものにするよう努めたい。
たとえば,生徒が,“My sister Naomi sometimes go to the 1ibrary." といったとする。語順がしっかりしているから,意味は充分に通ずるが,教師は“go"の“es"に神経をとがらせてしまうことがしぱしばある。このような教師の完璧主義(Perfectionism)が生徒の表現意欲をそいでしまわないように注意したい。勿論,教師の生徒に与える英語はどこまでも正確を期すように努力をしなければたらないが,生徒の誤りは,その学習の目標などに照して,寛大に扱えるものは大目に見てやりたい。
(3) 多感覚的手法の導入
わかり易い指導を展開していくためには,生徒の能力の違いや特性なども考慮に入れて,「わかる」ための回路を多くしておくことが必要となる。すなわち,視覚的なアプローチや聴覚的なアプローチたどを効果的に組み合わせた多感覚的なアプローチ(multi-sensory approach)が望まれるわけである。
たとえば,音声指導では,OHPや教師のデモンストレーションなどによる視覚化を考え,読解や作文には,テープ・レコーダーやLLなどの聴覚的な教育機器の利用を通しての音声化を考えてみたいものである。
(4) 理解度のは握
わかる指導を成立させていくためには,どうしても生徒一人一人の理解度を常には握していなけれぱならない。指名した生徒が正しく答えたからといって,他の生徒がみな理解しているとは限らたいのである。
すなわち,「わかる」ことの最も中心的な事実は,小徒一人一人に対してのフィードバックの成立にあることに注目をしたい。このためには,チェック・ポイントを明確に設定し,アナライザーやアンサー・ポウルなども活用して,常に生徒の理解反応を組織的にしかも連続的にとらえていくことが必要となる。
このようにすれぱ,生徒は自己の学習のステップを明確にとらえることができるし,一方教師にとっては,指導の改善の糸口を見いだすことができることにたる。