福島県教育センター所報ふくしま No.22(S50/1975.8) -002/026page
教 育 工 学 的 学 習 指 導 と 教 材 研 究
−小学校4年の社会科教材を例として−
第 1 研 修 部 西 谷 地 金 成
教育工学と聞くと,工学の「工」の字にまどわされて,教育の中に機械をもちこんで教育の効率を上げることである,という印象をうけやすいと思います。それも教育工学の一部分ではありますが,すべてではありません。教育工学とは,教育目標の達成のために,教育過程にたずさわる構成要素をうまく組み合わせて教育効果をたかめる研究,ならぴにそれらの効率のよい実践方法を研究する学問であるということになります。
では,どんな分野で教育工学が研究されているかみますと,それには次の三つの分野が唱えられています。
教育工学 I これは教具の量要性を強調するハードウェアからのアプローチです。この教育工学観は,物理科学の成果を,教育や訓練のシステムへ応用しようとする考えから発展したもので,教育工学をテーマとする多くの文献に見られる領域です。具体的にあげるならば,いわゆる視聴覚機器とかテーチングマシンのようた教育機器を使って教育の効果を高めようとする研究分野とか,コンピューターのような情報科学的な技術を使って教育に役立てようとする分野をいいます。
教育工学 II この教育工学観は,学習者の行動を形成するのに学習心理学で解明された諸原理をうまく応用しようと考えるもので,ソフトウェアの面からのアプローチと考えられる領域です。すなわち,行動理論とか行動科学の成果を利用して効果的な教育内容の配列だとか教育方法を開発する研究分野をさしています。
教育工学 III 第3の教育工学は,ハードウェアアプローチの教育工学観とソフトウェアアプローチの教育工学観を調和させたものであり,教育の理論と実践の間の橋渡しをするものです。別な表現でいうならば,人間工学的な教育工学といわれ,人間工学的な知識を利用して,有効な施設・設備・教具・教材を開発する研究分野です。
以上,三つの教育工学観のうちで,現在一般的に研究されているのは,教育工学IIIの分野です。したがって,教育工学の一般的なねらいとして,次の五つをあげています。
(1) 子どもとか子どもの集団に最も適した目標は何であるかをうまくみつけだして上手に子どもにあわせて並べてやる。
(2) 子どもや子どもの集団にあわせて教育目標を選んだならば,その教育目標を達成したかどうかを測るのにいちばん適した教育効果を測定する尺度をきめる。
(3) いちばん教育効果があがる教師の教育活動をみつけて選ぴだす。
(4) 最もよい教育効果をあげるための環境条件をみつけだす。
(5) 教育活動と環境条件をうまく組み合わせて最大の教育効果があがる法則は何であるかをみつけ,その法則を適用する。
こうしたことが,教育工学で究極的にねらわれていることなのです。
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このような教育工学的な理論を考察してまいりますと,社会科学習では,特にこの教育工学的な宇習指導の研究が必要ではないでしょうか。わけても社会科学習の性格からみて,情報科学の立場からその指導方法を検討することは,今後の改善に役立つものと考えられます。
学習における情報の伝達は,教師から子どもたちへ,坂元氏のいわれる「行く」ものと,子どもたちから教師へ「帰る」ものとがあって,正しく情報処理が行なわれ,目標達成の制御がなされるためには,情報は「行って,帰って,また行く」必要があるといわれています。
上の図のような学習過程により教育効果の向上をめざすためには,授業のシステム化が必要になります。そのシステム化とはいったい何でしようか。