福島県教育センター所報ふくしま No.22(S50/1975.8) -007/026page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

3. 高学年

高学年の児童の思考操作の特徴は,実在の超越ができるようになり,感覚から離脱し,意味を代表する言語形式を用いることができるようになることと,命題間の組合せ操作にある。

(特徴は「教師のための数学入門」による)

学習に対する興味形成を考える場合,思考操作の特徴の外に,問題解決過程に対する一般的見解をみる必要があろう。

(3) 問題解決過程

1. 与えられた問題が外的刺激となって,児童個人の意味体系の中に問題場面が構成される。

2. そして,児童は問題場面に共感することによって,その問題を解決しようとする自主的態度を作る。

3. この態度から解決の目標が明確になり,児童はその目標を核として意図的に問題の純化をはかる。

4.この純化によって,児童は数関係としての抽象化を行い,計算という数処哩の方法を生みだす。

以上の考察から,学習に対する児童の興味形成についてまとめると,次のようになるであろう。

(4) 興味形成

教材の具体的な意味づけは,問題解決過程からみて,児童のもつ意味体系と一致することが望ましい。

そうでなければ,学習する問題場面と児童個人の問題場面が一致せず,学習問題場面に共感しない児童が多くなると考えられるからである。

また,児童の思考操作の水準よりも,教材の具体的な意味づけが低いと,児童はその教材に興味をあまり示さないといわれるので,教師は教材に具体的な意味づけをする場合,思考操作の発達的変化の加速現象を考慮する必要がある。

したがって,教師は児童の実態調査から,思考操作の一般的特徴を基準にして,児童の思考操作の発達的変化をとらえ,その結果にもとづいて,教材の具体的な意味づけをして児童の学習意欲を駆り立てることを考えなければならないといえよう。

次に,この場合の判断基準の例を簡単に示して,参考書名をあげる。

(5) 判断基準の例

1. 自己中心性離脱の判断基準

自己中心性離脱の判断基準
図3

このような問題に正しく答えることができれば,一応,自己中心性を離脱したと判断してよい。

それは,第三者の立場で基準量を設定できるとみられるからで,正しく答えられない場合は「絵の部分」だけをみて,自分の好みから基準量をきめていると考えられるからである。

2. 実在の超越ができないことの判断基準

「5円玉7こと5円玉3こあると,みんなで,5円玉何こになりますか」という問題に正しく答えられるが,「5の7ばいと5の3ばいとを合せると,5の何ばいになるでしょうか」という問題に正しく答えられないときは,一応,実在の超越ができない時期にあると判断してよい。

それは,現実的量5円と抽象数5の違いであるが,前の問題では問題場面が現実的にとらえられることから教の間の量的関係の混乱がさけられると考えられ,後の問題では,言語だけで与えられているので,真の問題場面がは握し難いと考えられるからである。

このような実態調査をする場合,「教師のための数学入門;明治図書」,「思考の発達と学習;学芸図書」などを参考にするとよい。

また,児童の心理的側面を重視した学習指導案を作成する場合は,「分析的授業モデル;明治図書」が役立つと思われる。

4 おわりに

これまで,いろいろの文献をみて,実際の授業の応用に役立つ算数科の効果的学習指導法の研究は,思考心理の立場から,アプローチするのが適切であろうと考えていた。

しかし,研究の方向や研究の直接的意義について考察する機会を得ないでいたので,自分の研究の道しるべとして,手に入る文献によって,思考操作の発達的変化の概略の推定から,学習に対する興味形成という観点でまとめてみた。

教材の精選や学習指導法改善のための研究に役立てば幸いである。

参考文献

数学教育学論究IV,V(日本数学教育会)
幼児・児童・生徒の心身発達について(文部省初等中等教育局教育研究開発室)
教師のための数学入門(明治図書)
分析的授業モデル(明治図書)


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育センターに帰属します。