福島県教育センター所報ふくしま No.23(S50/1975.10) -013/026page

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あるがほとんど形は変らない。bは4層のコラーゲン繊維を短かく切ってあるのでaに比べて変形が少ない。

いか肉の加熱後の重量の減少率は,70℃までは4〜6%であるが90℃になると8〜10%と高くなり,更に加熱時間が長くなると脱水が多く,重量が滅少する。(図3)

いかの加熱後の長さの縮小率は,aでみると縦の筋繊維が70℃,20秒で17.5%,90℃,20秒で22.5%,更に90℃で60秒と時間を長くすると27.5%と縮小率が高い。

bの方も同様である。それに比べて横の筋繊維の方は縮小率が少ないが,90℃,60秒の加熱ではaで11.2%,bで12.5%と加熱時間が長くなれば収縮が大となる。(図4)

図3  いか肉加熱後の重量減少  図4  いか肉加熱後の長さの縮少
図3 いか肉加熱後の重量減少 図4 いか肉加熱後の長さの縮少

5.調理ヘの応用

調理は食品の性質をよく理解して,それにさからわないにしないとよい結果は得られないものである。

したがって1学年から3学年まで通して「食品の調理上の性質について指導する」という項目が大きくとりあげられている。このねらいは,調理手法とともに調理中におこる食物の物理的・化学的に目をむけさせ,科学的調理ができるようにするとともに,転移,応用の能力を養うところにある。

今回はいかを例にあげたが,いかをおいしく,きれいに調理するにはいかの組織,加熱による変化をよく知って指導しないとその目的が果せたい。

中学校では布目いかにすることが多いが,皮の4層のコラーゲン繊維と筋繊維の収縮の性質を利用したものである。またこの性質を利用して,なるといかやからくさいか,まつかさいかをつくることができる。この場合繊維の方向をまちがうとよい製品ができない。図5と写真6はその例である。

図5  第4層を残した場合の縦横の切り目の入れかた
図5 第4層を残した場合の縦横の切り目の入れかた

写真6  いか肉の加熱と収縮
写真6 いか肉の加熱と収縮
なるといか からくさいか
左が図5A,右がBのもの

写真6のなるといかやからくさいかのように収縮させて形をつくるものは,皮の4層の強じんなコラーゲン繊維の収縮を利用するので,Aの方向に切ることがたいせつである。Bの方向では写真6の右のように丸まらない。尚調理に際しこのような切り目を入れるのは美しくするためばかりでなく,コラーゲンを切って食べやすくすることとあわせて,たんぱく質の熱変性が速く,味がしみ込みにくいので味をからませる一つの方法でもある。

また逆に丸まっては困る場合もある。いかにはるさめなどをつけて菊花揚げにしたり,うにや卵黄などをつけて黄金焼きにする時などその例である。この場合は,加熱実験のa 5 の方法のように皮を4層までむいてしまうか,4層に体軸に直角に切り込みを入れ,焼くものは更に串うちして形をととのえるようにする。いかの調理性をよく理解させておけぱ,正しく応用できるものである。

いかの成分はたんぱく質が17%で,脂肪は1%しかなく,水分が80%も含まれている。加熱実験の加熱による重量減少図3でみられるように,加熱時間長いいほど脱水させて非常にかたくなる。加熱は短時間が望ましいので生徒に手順を考えさせるようにする。

6.おわりに

以上の実験はそのまま授業でさせるものではなく,先生方がいかの調理を指導する際の教材研究の一つとして取りあげたものである。いかの調理性指導の際にいかの皮のむき方と収縮の具合や筋繊維の方向をかえた切り方をしてみせて「それは何故か」と追求する態度を生徒にうえつけたい。さらに生徒が加熱による変性から酢,食塩によってはどうかと考えが発展するようならすばらしいと思う。応用性や転移性にとんだ技術指導をめざしてその習得の過程で科学的な追求を重視したい。

魅力ある教材の扱い方をし,学校で教わったものを創造的に生活に生かし,明るく豊かな家庭生活を常に心がけるような生徒に育てたいものである。

参考文献

食品の組織学的研究(I)〜(IV) 星野忠彦著
調理と理論 島田・山崎共著


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