福島県教育センター所報ふくしま No.24(S50/1975.12) -002/026page
小 学 校 教 材 消化・吸収に関する実験法についての検討
ー科学の方法を中心としてー第2研修部 深沢 一栄
1.はじめに
最近,小学校の理科指導の中でも,探究の過程や,科学の方法に関する研究が盛んになり,実践的な研究が数多く見られるようになってきた。
探究の過程や,科学の方法の重視は,ここで述べるまでもなく,きわめて重要なことである。しかし,教材のすべての内容にわたって,探究的に深めることは,時間的にも不可能なことであり,ある教材に指導の重点を置いて,深めていくなどの方法が考えられなければならい。
ここで取り上げた消化・吸収に関する教材は,デンプンが小さな分子に分解きれる過程を通して,探究的にとり上げることのできる教材のひとつである。
小学校学習指導要領は,消化・吸収に関する内容として,「食物は,そしゃくされたり,酵素のほたらきをうけたりして,吸収きれやすい物質に変えられること」と述べ,さらに理科指導書は,その解説の中で「口の中では,食物がそしゃくされ,細かくくだかれてた液が混じること,だ波の中に含まれる酵素は,デンプンを水に溶ける糖に変えることなどを理解させる」と述べている。
このことから,消化吸収に関する実験を構成すると,
・デンプンが,だ液の中の酵素によって,他の物質に変えられることを調べる実験。
・そしゃくされると,消化されやすくなることを調べる実験。
・デンプンが変化してできた物質が糖であることを調べる実験。
・糖がデンプンより小さい物質であることを調べる実験。
があげられる。これらの実験は,酵素のはたらきを理解させるためにも,欠かすことのできない実験である。ここでは,科学の方法の指導という観点から,これらの消化・吸収に関する実験法について述べてみたい。
2.だ液によるデンプンの消化と対照実験
デンプンの消化に関する実験は,デンプンが,だ液の中の酵素によって,他の物質に変化する事実をとらえさせることから始まる。この実験は,デンプンの変化を観察させると同時に,対照実験の指導という点でも,大きな意味を持つ。
実験1 デンプンが、唾液の中野酵素によって、他の物質に変化することを調べる。
ねらい(1)デンプンが、唾液の中の酵素によって、他の物質に変化する事実を観察させる。
(2)対照実験の必要性を理解させる。準備
1%デンプンのりを20mlずつ2つのビーカーにとり、定温器にいれて37℃の保つ。方法
(1)1%デンプンのりを20mlずつ2つのビーカーにとり、定温器に入れ37℃に保つ。
(2)脱脂綿を口にくわえて唾液をしみこませる。しばらくして取り出し、ビーカーにしぼり、水で10倍にうすめる。これを定温器に入れ、37℃に保つ。
(3)ビーカーに水を入れて、定温器に入れ、37℃に保つ。
(4)(1)で用意した二つのビーカーに,(2)(3)で用意した唾液と水を、それぞれ5mlずつ加えて37℃に保つ。0分から5分後まで、1分間隔に2mlずつ時計皿に取り出し、ヨウ素デンプン反応を調べる。結果と考察
写真1は、その結果を示したものである。でんぷんのりにだ液を加えたもの
でんぷんのりに水を加えたもの
写真1この結果から、ねらいのひとつである変化の事実をつかまえることは容易であろう。むしろ、この実験の指導は、対照実験の方に重点が置かれなければならない。
対照実験は観察される変化が、どのような要因によって起こっているかを決定するためにとられる方法である。