福島県教育センター所報ふくしま No.24(S50/1975.12) -005/026page
小 学 校 教 材 たて笛の導入期における指導
第1研修部 古 関 斉
1.はじめに
笛の指導が3年生に位置づけられたのは,現行の学習指導要領からですが,笛(主にたて笛)の普及は目を見張るものがあります。学校によっては授業だけでなくクラプ活動に取り入れて,たて笛のアンサンプルまで発展させているところもでてきているし,先生方が自主的に研修サークルをつくり定期的に自己研修に努め,教育的効果をあげていることもあって,たて笛に対する音楽的教育的評価が年々高まりつつあることは,よろこばしいことです。
しかし,まだまだ「たて笛の特性を無視した指導」や「指導手順の違い」とか「いつまでたっても正しい奏法が身につかない」等の評もきかれ,たて笛をとおして音楽性をつちかうところまで至っていないことも事実です。その大きな要因の1つは,たて笛の導入期における指導にあるように思われます。
たて笛は純粋なひびきと素朴で無邪気な音色,誰が吹いても簡単に音が出て,取りつきやすい身近な親しみを感じる楽器ですが,このことはたて笛の長所であると同時に,指導過程において安易に扱われ短所となりやすい危険を含んでいます。平易に音出しができることは,音づくり(耳づくり)の過程を越えて勢い旋律を吹かせる運指のメカニックな学習に走りやすく,たて笛のもつ音楽的発展性は低い次元で停滞してしまい,教育的効果は期待できないでしょう。
たて笛の特性を生かし,たて笛をとおして児童の音楽性をつちかい,創造性豊かな音楽学習が展開されるには,教師のたて笛に対する正しい認識とたて笛と児童とのであいに十分な教育的配慮と指導のてだての用意が望 まれます。
2.たて笛(recorder)について
たて笛に限らずそれぞれの楽器にはそれぞれの生まれ育った時代的背景や特性があり,その時代の要請や機能特性がどんな形態でどんな音楽を生み,どのうに発展してきたか。またこれからどのように発展させる可能性があるか等知ることは,単にその楽器の歴史や特性を理解するだけでなく,音楽に対する美意識や教材の精選,指導法,さらに音楽教育の理念まで影響するものと思われます。
(1)歴史から見たたて笛の特性
たて笛の歴史について詳細に述べることは,紙面の都合上できませんが,最も盛んに愛好され演奏された時代(ルネサンス後期,バロック)について,奏法や表現上重要な点を1つ上げてみます。これらの時代は,音楽の様式がかなり違っていますが,共通していることは,たて笛も当時の重要な楽器,ピオールやチェンバ口と同じく室内的楽器であり,演奏される場所は,宮廷のサロンや教会の礼拝堂のような響きのよい小ホールであったことです。このことは今日のピアノや吹奏楽器で大ホールを会場として演奏するような,量感やダイナミックな奏法や表現を強要することができない楽器であることをまず銘記すぺきです。
現代の音の氾濫は音楽教育にも大きな影響を与え,音楽美の価値感にまで偏見をきたしているように思われます。量感やダイナミックな音楽実を求めすぎて,清純で澄明な美しさをもった児童の声や純粋で素朴なたて笛のひびきを犠牲にしていないか?
音楽教育にこそ皮相的表現よりも,心から躍動する健康さと,落着いた静かな美しきをもっともっと大切にしていきたいものです。たて笛はそのような音楽を求めている楽器です。
(1)教育楽器としてのたて笛の特性
○作音楽器であること。「美しい音」や「正しい音程・リズム」を自らの耳で作りあげていく楽器である。
○ たて笛は完成された楽器で,独奏から合奏まで中広い音楽活動ができ,音楽として発展性がある。
○身近で親しみやすい楽器である。初めてでも容易に音が出せて,平易な曲から秀れた曲まで進度によって教材が自由に選べる。
○アンサンプルに最適な楽器である。簡単なアンサンプルから本格的なリコーダー・コンソートまで発 展させることができる。
○たて笛の呼吸法は歌唱表現と密接な関連があり,音楽学習の根幹ともいうべき歌唱表現との―体化がはかりやすい。
○読譜や創作,鑑賞の領域にも応用ずることができる。 ○音楽の生活化に最適な楽器である。
(3)たて笛でなにを指導するか。
たて笛の指導は,単にその奏法の技術や演奏法の知識を指導するのが目的ではなく,たて笛の指導過程をとおして音楽の美しさや楽しさ,音楽の意味をさぐりなが