福島県教育センター所報ふくしま No.26(S51/1976.6) -007/034page

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3. 糖葉を用いた光合成の実験

 ユリやショウブなどの糖葉では,光合成の生成物を単糖類(ブドウ糖や果糖など)や二糖類(ショ糖など)として体内に持っている。これらの糖の検出は,ヨーソデンブン反応と同じ意味を持つものである。

 (1)ベネジクト液のつくりかた。

 糖の検出にはベネジクト液を用いる。ベネジクト液は糖の還元性を利用した検出試薬であるため,ブドウ糖や果糖のような還元性を持つ糖は検出できるが,非還元糖であるショ糖を検出することはできない。そのため,ショ糖を検出する場合には,酸を加えブドウ糖と果糖に加水分解をしてから検出をする。

 処方は次の通りである。

 クエン酸ナトリウム173g,無水炭酸ナトリウム100gを600mlの水に溶かしてろ過し,ろ液に水を加えて850mlとする。

 硫酸銅(CuS0 4 ・5H 2 O)17.3gを水100mlに溶かし,前につくった水溶液をかき混ぜながら,硫酸銅水溶液を少しずつ加え,さらに水を加えて全量を1l(リットル)とする。

 (2) 実験のすすめかた

ねらい

○糖葉を用いて光合成による糖の生成を調ぺる。

準備

ラン科,ユリ科,サトイモ科の植物,ベネジクト液2%ブドウ糖水溶液,2%果糖水溶液,2%ショ糖水溶液,2N一塩酸,炭酸水素ナトリウム,試験管試験管立て,薬品さじ,乳鉢,ロート,ロート台,ろ紙,目盛り付きスポイト,ビーカー

手順と方法

  1.  3本の試験管に5mlのベネジクト液をとり,それぞれに2%のブドウ糖水溶液,果糖水溶液,ショ糖水溶液を加え,沸騰水に8分間つける。その後冷却し,それぞれの糖とベネジクト液との反応を調べる。

  2. ショ糖水溶液に2規定塩酸を2ml加え,2分間煮沸する。流水で冷却し,炭酸水素ナトリウムを加えて中和する。この液のO.3mlを5mlのベネジクト液に加え,沸騰水に8分間つけて冷却した後反応を調べる。

  3. ラン科,ユリ科,サトイモ科などの単子葉植物の葉を1gはかリ,2mlの水を加えて乳鉢でよくすりつぶし,ろ過をする。この液のO.3mlを5mlのベネジクト液に加え,沸騰水に8分間つけて反応を調べる。

  4. 目光に当てた葉と当てない葉を1gはかり,2規定塩酸を2ml加えて乳鉢でよくすりつぶし,ろ過をする。この液を2分間煮沸し,炭酸水素ナトリウムを加えて中和する。中和した液を0.3mlはかり,5mlのベネジクト液を加え,沸とう水に8分間つけて反応を調べる。

  5. (3) 実験の結果と考察

     光合成に関する化学反応の全過程はまだ解明されていないが,消費される物質と生産される物質から,次のような反応式で表わすことかできる。

    6C0
    2
    十12H
    2
    O+光のエネルギー(688Ca1)   →C
    6
    H
    12
    0
    6
    +6H
    2
    O+60
    2
       xC
    6
    H
    12
    0
    6
    →(C
    6
    H
    10
    0
    5
    )x+xH
    2
    0

     光合成でまず最初に生成されてくる有機化合物は,C 6 H 12 O 6  で表わされる単糖類である。デンプンを合成する植物は,この単糖類からデンプンをつくっていく。光合成の実験は,一般にはデンプンを生成物として検出するため,糖として検出していくことは特殊な場合のように考えられるが,有機化合物生成の過程から見れぱ,むしろ,より基本に近い実験であると言えよう。

     この実験でもベネジクト液の性質を明らかにするために,ブドウ糖,果糖,ショ糖との反応を調ぺている。この操作は前述した通り基本的な操作である。

     1.では還元糖であるブドウ糖と果糖があざやかな赤かつ色の沈殿として反応をしてくる。ショ糖は加水分解をしてはじめて反応を示す。この操作は,手順の4.で植物に塩酸を加える意味を理解させる点で大切である。しかし,糖の加水分解に深入りし過ぎることは,生徒の理解の範囲を越えるし,この実験のねらいからも外れてくるので注意しなけれぱならない。2規定塩酸を加えた加水分解を,いくつかの植物で行ってみると,加水分解をしない場合と比較して,かなりの差が出てくるものがある。植物によって,含まれる糖の種類に違いがあることがわかる。

     ベネジクト液は,含まれる糖の量によって反応の色が変化し,糖が多量に含まれてくると沈澱の量が増加するとともに,硫酸銅の青い色かうすくなってくる。既知濃度の糖の水溶液とベネジクト液を反応させておくと,その色と比較することによって比較定量をすることが可能になり,二酸化炭素の量と光合成の関係,光の量と光合成の関係を定量的に調べることができるようになる。中学校でこの実験を行なうとすれぱ,定量的な実験は,時間的,技術的な制約をうげるため,定性的な実験になるであろう。ここに示した程度の実験であれぱ,授業の中で取り上げることも可能である。

    4.おわりに

     インジゴカーミン法は,BTBを用いた実験と同様に簡単な用具と方法で実施することができる。本県では,教科書の関係で生徒実験として取り扱っている学校は少ないと思われるが,ぜひ実施してみたい実験である。

     糖葉に関する実験は,糖を検出するだけであれぱ,20分程度で完了する実験である。光合成の生成物がデンプンだけでなく,糖をも含めた有機化合物であることを理解させるために,時間を生み出して取り上げてみたい実験である。


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