福島県教育センター所報ふくしま No.26(S51/1976.6) -018/034page
例4-<観察メモおよび録音テープによる再生> 過程\内容 教師の基本発問 発問のねらい 生徒の主な反応 導入 ○上田先生は,なんと言われましたか。
○「私」は,どんな人だと,思いますか。
○筆者の学習動機に気づかせる。
○筆者の人柄や性格を知るようにさせる。
○アイヌ語研究は,日本の学者の責任である。
○家族に迷惑かけたが,根性は立派である
展開 ○普通は,大学を卒業したら,どうしますか。 ○筆者の悩みの中から,共通した考えをとらえる。 ○会社へ就職し,給料で生活する。 ○研究を続けたら,家族の期待を裏切ったことになりませんか。 ○自分の家族愛への認識をたしかめさせる。 ○家族を裏切らない。
○後でわかってくれると思う。
○「わかってくれる」とは,身勝手ではないですか。 ○家族の立場からの心情を理解させる。
- 「研究の意義にも目を向けさせる。」
○家族を救いたい。
○他の人でも研究はできる。
- 「でも,研究が」
○研究をやめたら・・・・・・家族を救えたのでは?・・・・・・ ○家族の状況と研究の意義(内容)を考えさせる。 ○家族を困らせることにはなるが,研究に悔が残らないようにしたい。 ○滅びるものなら,やらなくてもよいのではないか。 ○文化継承への努力と「人類の理想」に気づかせる。 ○やはり,アイヌ語を救うのは,日本の学者の責任だと思う。 終末 ○この資料から,学んだ事を書いてみよう。 ○(感想から,ねらいをとらえる。) ○真剣に書く。
- 何人かがつぶやく。
筋のたしかめから,学習動機(「アイヌ語研究は,日本の学者の責任」など)を共感的にとらえており,同質的な面(「家族愛」や「心情的な受けとめ方」など)を研究の意義(理想の追求」)と対立させることによって,その意義の価値的思考を追いつめ(「わかんねえなあ」というつぶやきが聞かれ)た。
しかし,ここで「より望ましい理想杜会」という観点から,想定的に,主題へ迫ることによって,より効果的な展開がなされたかも知れない。少くとも,「家族への愛」と「研究の意義」との対立の中に,「大切な何か」があると大部分の生徒が気付いている(「終末の感想」から)ところから,相当,主題のねらいに追った授業であったと思う。
特に,「多角的な思考」の観点としては,先ず,筆者との共通点(「同質的な考えや悩み」など)を自己の持つ道徳性として,共感的にとらえており,「家族への愛情」「家族の筆者に対する愛情や考え(期待)」「家族の(経済的な)状況」「恩師からの激励」「アイヌ語(研究)への情熱」「アイヌ語の危機」などが,価値追究の過程の中に設定され,効果的な働きをしていた。また,感想から,主な内容をまとめてみると・・・・・・
表(7)-<但し,延人数> 感想の主な内容 初発 終末 とらえる観点 a 苦労してやり通したのは立派 9人 7人 ねばりづよさ b 情熱的で責任感が強い 15 0 一元的な共感 c 立派だが家族の犠牲は疑問 0 9 意義・心情の理解 d 家族の犠牲はよくない 1 9 家族愛 初発のa・bにおいて,24人が「筆者の立派」さに共感しているが,ねらいとする観点(「理想の追求」)からではなく,家族愛からの心情的なつらさの中でやりぬいた根性と成功という,実際的な「かっこよさ」に対する反応(「偉くなれぱ,家族も許してくれると思う」など)のようである。また,cとdにおける変化は,aとbの変化と比して,相対的に,心情面から思考を追いつめ得た結果「本音」とみられる。終末のa(7人)は,性格的な受けとめ方もあろうが,建前的なつらさ(「よく父に言われたから」など)が,含まれているようである。
更に,初発と終末における変化から,研究主題のねらいに,どれだけ迫ったかを内容的に見ると,知見的な面での深まり方から,「アイヌ語研究は,やはり,目本の学者の責任であると思う。」「滅ぴゆく文化へ救いの手をやらなければならない。」「他に研究する者がいないのだから。」など,「理想追求」の(「理想社会の実現」をめざす)姿を次第にとらえかけて来ており,家族への愛に追いつめられながらも,筆者の(価値ある行い「研究」の)立派さに気付き,共感した,むしろ,生徒の心情が厳しく純化され,深い判断を期待させるための,赤ららな姿で取リ組んだ授業であったと思う。
2. 検 証
(ア) 授業にかかわる事前事後調査結果の検定
B方式においても,かなり,総合的な判断力は高められたが,しかし,A方式においては,更に,心情面までも高められ,総合的な判断カが伸びていると見られる。また,仮説の実証として,A方式の方が,より有効であったかどうかをたしかめるために,授業の事前と事後における調査結果を例2のように「道徳性換算数値」でとらえ,検定してみた。
○事前事後テストの検定 A方式(n=24) 第2回 第4回 M S・D M S・D 事前 46・39 17・16 37・50 12・59 事後 60・83 18・88 43・44 15・75 相関関係 r=0.801 r=0.863 分散の検定 T 0 =0.766<T 0.01 =2.819 T 0 =2.142<T 0.01 平均の検定 T 0 =2.518<T 0.01 =2.807 T 0 =3.487>T 0.01