福島県教育センター所報ふくしま No.28(S51/1976.10) -008/026page
小・中学校における教育相談の諸問題
研究相談部 大 内 昭 市
1.はじめに
教育相談は,従来専門家が行うものと考えられてきたが,現在では,担任による相談の必要性が強く認められつつある。小学校では,毎日の指導の中で教育相談的なことを行っているから,ことさら新しく教育相談は取り上げなくてもよいとする考え方もある。しかし,現在の激動する社会の中で,児童,生徒は,心身ともに健やかな状態にあるかと言えば,否といわざるをえない。児童,生徒にも,この社会のゆがみの波は,直接間接に打ちよせてくるからである。これは,非行児などの問題行動の低年齢化している現況をみても理解できるであろう。また,受験体制の強化は,知育偏重という姿であらわれてきている。
身体の健康の大切さは十分に理解され,体力づくりがなされているが,それに加えて重視しなければならないことは心の健康である。児童,生徒をみて,その心情を適確にとらえることは容易でないが,教師が相談的な構えをすることによって解決が図られよう。そのような角度から,学校現場での教育相談の問題点は何か,その解決はいかにあるべきかの手がかりを得るため,今回教育相談に関するアンケートを実施してみた。このアンケートは,各種講座で教育センターに来所された先生方からいただいたものである。学校別では,小学校47校,中学校36校 計83校となっている。
2.学枚における教育相談の現状
(1)教育相談の問題点
小・中学校の先生方からの回答をまとめてみると
小学校
中学校
回答数 %
回答数 %
1 教育相談のあり方が分らない 2 担任の指導に限界がある
3 時間にゆとりがない
4 組織体制が不備である
5 面接技術が未熟である
6 研修の機会がない
7 教育相談室が不備である
8 問題児の対策ができていない
9 資料の活用ができない
10 信頼関係が希薄である
11 共通理解にかける
12 自主来談がない
13 教育相談は断片的である
14 その他
8
7
5
4
3
3
3
2
2
1
0
0
0
5
18.6 16.2
11.6
9.3
7.0
7.0
7.0
4.7
4.7
2.3
0
0
0
11.6
0 3
14
7
16
4
7
3
10
11
5
11
3
5
0
3.0
14.1
7.1
16.2
4.0
7.1
3.0
10.1
11.1
5.1
11.1
3.0
5.1
計
1 小学校における問題傾向
ア「教育相談のあり方が分らない」 とする回答が最も多かった。これは,教育相談の必要性がまだまだ意識されていない結果と判断されるようである。
イ「担任の指導に限界がある」 小学校では,学級担任制であるので,ともすれば,学級王国的な面が強くなり,問題行動児があった場合,担任の責任で指導することが多い。従って,指導に限界を感じたときは,多くの教師の協力で解決を図るようにすべきであり,気軽に話し合える雰囲気を作ることが必要となる。
ウ「時間にゆとりがない」 現場の実情から考えて,教育相談を行う時間は少ないかも知れない。教育相談の時間は与えられるものでなく,求めるものである。子供を知ろうとする教師の積極的な態度こそ,その解決策につながると信ずる。
エ「組織体制が不備である」 組織の上で,教育相談係としては位置づけられていないが,生徒指導係の中に含まれているのが普通のようである。生徒指導係は,非行児などの早期発見にもかかわるような組織でありたい。
2 中学校における問題傾向
中学校では,「時間にゆとりがない」ということだけが,小学校と共通の問題であって,その他は,異質の傾向にあることが特徴である。以下順に回答の多いものからあげてみる。
ア「面接技術が未熟である」 これは,研修の機会が少ないことと関連しているが,面接技法の向上を図るといっても短期間に実を結ぶものでない。実際の面接の体験を通して,生徒の心をとらえようとする姿勢が大切であり,教師の人間性を高めることも必要なことである。
イ「共通理解に欠ける」 教師の教育経験から,すべての教師が,同じスタート台に立つことの困難さはいうまでもない。しかし,教育相談について統一見解を持ち,全教師が行うよう方向づけることは大切なことである。
ウ「自主来談がない」 学校においては,自主来談が望ましいことであるが,実際には極めて少ないようである。教師の訓戒的,管理的な態度も問題であるが,問題の解決や悩みの解消のために,即効を期待することにも問題がある。これらの反省に立って,相談を進めるならば,教師と生徒との人間関係も改善され,徐々に自主来談につながっていくであろう。特に生徒の秘密を守ることについて細心の注意をはらう必要がある。