福島県教育センター所報ふくしま No.32(S52/1977.8) -021/033page

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随想

雑草について

第二研修部 平 山  宏

 梅雨が空け,暑くなってくると,庭や畑に雑草がいっせいに繁茂し,いくら草をとっても,耕しても,雑草を根絶させることができずに苦労しています。

 なぜ,雑草はとってもとっても繁茂するのだろうか,雑草を1本もなくすことはできないだろうかと,いつも思案しています。除草剤をまいても,またいつの間にか雑草が生い茂ってくるという状況で,雑草をなくすということは,はたして不可能なのでしようか。

 いや,ただひとつ雑章をなくす方法があるのです。それは,雑草をとらないこと,畑を耕さないこと,いっさいの管理をしないことだそうで,つまり,庭や畑でなくすることです。そうして20〜30年たてば,そこは森林になり,いま生えている無数の雑草は1本もなくなってしまうでしよう。

 つまり,雑草をとったり,耕したりしている人間の努力は,一方では,雑草がもっとも生育しやすい環境をつくっていることにほかならないのです。

 人が作物を栽培するためにつくった耕地に適応して,生育している雑草は,好窒素性の1年生植物で,種子の生産カがきわめて高く,1株あたり,ヒメムカシヨモギでは819,620〜59,960粒,スベリヒュでは243,900〜34,410粒,メヒヒバでは76,780-32,780粒の種子を生産し,作物より速く成長,成熟して種子がこぼれやすくなっています。雑章とよばれる種子は,100分の19にもみたないほど微小なものや,タンポポ・ヒメジョオンなどのようにパラシュートで風に運ばれるものか多くあります。

 1メートル平方の土中に含まれる種子の数は,数十万から百数十万粒におよぶといわれています。だから,いくら草をとっても,耕しても,次から次に草が生えてくるわけです。

 わが国の田畑に発生する雑草(作物以外のもののすべて)は471種といわれ,そのうち,畑地雑草は53科302種,水田雑草は43科191種,(共通種)18科76種となっています。そのほとんどは,アジアをはじめ諸大陸との共通種が多く,雑草にはコスモポリタンという語がぴたりとあてはまるように思います。日本固有種はネザサ類(畑地)とアギナシ(水田)だけといわれ,帰化雑草は100種ほどあげられています。

 路上の雑草についてみると,人通リの多い道路では,草がなく裸地になっているが,それほど人通りの多くない通路では,道の中央部は裸地になっていて,その裸地にそって帯状に地面に伏したような形で,オオバコ,オヒシバ,スズメノカタビラなどの雑草が生育しています。

 そして道路の両端に近づくほど,人や車にふまれる回数が少なくなるため,草たけが高くなるヨモギ,ヒメジョオン,オオアレチノギク,ヒメムカシヨモギなどが生育しているのです。

 このように,せまい一本の道でどうして植物の種類や生育状態がちがうのだろうか,なぜなら,すべての植物は,生育のために必要な最低限度の空間が必要で,特に移動能カのない植物では,ある草のそばに,他の草の種子が飛んできて芽を出しても,追い出したり,逃げ出したりすることができません。その相手に打ち勝って成長するか,逆に相手に養分をうばわれ光をさえぎられて,やせおとろえながらも生きのびるか,あるいは枯死してしまうかのいずれかになります。どの植物がこのような生存競争に打ち勝って生育するかは,植物の生えている立地条件がその植物に適しているかどうかによって決定されます。

 とりわけ雑草の種子の生産量は前述のごとくきわめて多く,これらの種子が風や人・動物などによって広く散布され,雨が降れば,どの種子も同じように発芽します。

 特にその土地の環境条件がよければ,いろいろな雑草の種子がいっせいに発芽するため,生存競争がはげしくより速く,より高く成長した植物のみが空間を占有して光合成を行い生育しつづけることができるのです。

 ところが,道路の中央部に落ちた種子は発芽しても,たえずふまれたり,土壌が固くなって空気の流通が悪く根が発達しないので,植物は生育できず裸地となってしまうのです。オオバコ,オヒシバ,スズメノカタビラなどの植物は,ふまれても,葉がちぎれてもなお育つので,この裸地に接した生存可能線ギリギリのところで,大きくなれなくとも開花結実して,次代の後継者を残していくのです。

 これほど生活力の強いオオバコは,ふまれなくなったら,さらに繁茂して,あたり一面オオバコだけになってしまうだろうと考えがちですが,しかし,路上をよく観察すると,人にふまれない道路の両端では,草たけの高いオオアレチノギクやヒメムカシヨモギなど,足のふみ場もないほど茂っていて,オオバコは見られません。

 つまり,人にふまれない場所では,ヒメムカシヨモギなどがオオバコよりも,より速く成長し,より大きくなって,その立地をおおってしまうため,オオバコはほとんど生育する余地がなくなってしまうからです。

 一見平和に見える植物杜会でも,じつは苛酷な生存競争が行われているのです。


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