福島県教育センター所報ふくしま No.33(S52/1977.10) -011/026page
高 等 学 校 教 材
「ケブラーの法則」についての指導
―探究過程を重視する―
第2研修部 入 道 正
I はじめに
高等学校・地学Iにおける「ケプラーの法則」の指導は往々にして,法則を単に羅列し紹介して終る例が過去に多かったが,探究過程を重視し,科学的 方法を修得する理科目標を達成する立場から,「ケプラーの法則」は恰好の教材であり,自然科学の経験法則から論理法則へと発展した歩みを理解させる教材でもある。
すでに知られているように,チコ・ブラーへ(Tych o Brahe 1546〜1601)の天文観測資料をケプラー(Johann Kepler 1571〜1630)が継承し,特に火星について,火星の運動と距離の間に何か関係があるのではないかと考え,その軌道の作図に取り組んだ。
惑星は見かけ上は複雑な運動をしているが,ケプラーは火星軌道は円(古代ギリシヤ哲学の完全なものは球である円形哲学が前提)である仮定を立て,チコ,ブラーへの資料から作図に取り組んだが,残された資料は火星の見える方向のみで,火星までの距離が記されていないので,その試みはすべて失敗し,その後,火星の方向のみから火星の空間上の位置を作図することに成功し,それよりケプラーの第1,2,3法則を経験的(経験法則)に発見した。
その後,ニュートン(Isaac Newton 1642〜1727)は太陽と惑星の間に万有引力を着想し,ケブラーの第3法則から運動の第2法則(論理法則)を導いたことはよく知られている。
次の項から,ケプラーの法則の指導に当って,必要な基礎的事項と探究的に学習を深めさせる方法について述べる。
II ケプラーの法則の指導
1. 火星軌道の作図にあたり,地球の公転軌道を太陽を中心とする円として作図してよいか。 地球軌道が太陽を中心とする円軌道であれば、太陽の視半径は常に一定値となるが,実際の観測値は表Iのように月によってその値を異にしている。
表Iよりわかるように,地球公転軌道は円軌道でなく,年間で視半径の差は32"程変化している。従って視半径の平均に対する変化率は±1.6%となる。
また,太陽と地球間の距離は太陽の視半径に反比例するから,地球軌道の作図にあたり,平均視半径のときの距離を5cmとしたとき+1.6%で5.08cm,−1.6%で4.92cmの長さとなり,ケプラーの法則の実習にあたり,地球軌道を円と見なして作業してもさしつかえない。
2. 火星軌道の作図の方法 火星軌道を作図する方法の1つに,三角測量の原理で離れた2点から火星を測量するケプラーの方法がある。
この方法は火星の方向を観測して687日(火星の公転周期)たてぱ,火星は再び元の位置に戻っている。
従って687日後再び火星の方向を観測すれば,火星軌道の一点が図1のようにして作図できる。
作図の手順
ア. 太陽を中心に半径5cmの地球軌道の円をえがく。 イ. 中心から任意の方向に線を引き,その方向を春分点( )の方向とする。 ウ. 春分点の方向から左まわりに,M―1の場合, 角度を測って中心から線を引き円との交点をE 1 とする。 エ. E 1 より春分点の方向に平行線を引き,それより左まわりに の線を引く。 オ. M―2について同様にウ,エの作業をし,M―1との交点をM 1 とすれぱ,M 1 は火星軌道上の一点となる。