福島県教育センター所報ふくしま No.33(S52/1977.10) -024/026page

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4. 本児の経過

(1)  5月○ 日,自律訓練法実習のあと,自分の信仰上の戒めと,自分の行動の反省を自主的に述べる。
 腹痛は,午前中に必ず起こる。
(2)  5月○ 日,家庭での自律訓練法自習は,家族に説明するだけで,自分は,実習しにくい。(雑念が湧く――表を作り実習と自己評価を試みたいという。)
 服装も整い,言動もきちんとしてきた。
(3)  6月○ 日,予約の時間より2分遅れたが,汗を拭きながら来室。自律訓練法実習の後,進路について自主的に話し出し,6月○ 日から登校したいと意志表示したので,援助しながら「段階的登校訓練表」を作成させた。起床について自信がないので「母親に話して欲しい」というので,家庭に連絡。
(4)  6月○ 日,自転車の余分なアクセサリーがとれ,ハンドルも,セミドロップに変わる。
(5)  7月○ 日,2週間の登校訓練スケジュール完了後登校に踏みきり,現在,身体症状も訴えず,登校を継続中。

5. 保護者の経過

(1)  ロールプレイで,本児の役割をおえた後,母は自分の一方的はたらきかけを深く反省したと口述。
(2)  4週にわたる感受性訓練のための小集団カウンセリングに熱心に参加し,本児の心情も理解できるようになりはじめ,それに併行して本児の症状も緩解し,「親子関係のプロフィル」と「エゴグラム」も(図―4〜5)のように変容してきた。
 
(図―4)
親子関係のプロフィル
 
(3)  母親の変容がきざし始めたころ,父も休暇をとって熱心に来談し,態度の矛盾性と不一致性をなくすために,「自分をみつめる時間をとる」と話すようになった。
(4)  父母の本児に対する態度が変容するに及んで妹も次第に兄として認める態度が育ってきた(本児の言)
(図―5)
エゴグラム

6. この事例についての所見

1)  要因と考えられるものは,ある程度の面接関係が成立してからでないとつかめない。治療の具体的方針はそれから立てるのがよい。
2)  自律訓練法は,相談関係を深める速度をたかめる効果もあるようだ。
3)  「エゴグラム」による自己分析は,その結果の説明がわかり易く,特に登校拒否症の要因となり勝ちな父母なかんずく母親の養育態度の改善には,「親子関係診断検査」とともに重要な資料のひとつとなりそうだ。
4) 「Y―G性格検査」は,本人への援助のポイント・自信をつけるポイントの発見にかなり役立つが,相談関係成立前(つまり初回面接時)に実施すべきかどうかは,十分に検討すべきである。
5)  登校拒否症のあるものは,家庭環境から否定的であったり,期待過剰的であったりという,葛藤経験も累積されているので,心底から大人に扱った言動で接することが,緊張を緩解させ,相談関係を好転させ,それ自体,治療効果を発しはじめることが多い。
9)  親自身の養育態度改善のテンポとともに本人の状態が好転してくるし,ロールプレイや小集団カウンセリングなどでの,親自身の子どもの心情に対する感受性のトレーニングによって,改善の度合は深まるようだ。

7. 予後

 登校に結びついてから3カ月近くを経たが,本人は,進路に希望を持ち,明かるい家庭生活と,張りのある学校生活を送っている。過日,保護者夫婦が来所し,所長に厚く礼を述べていかれた。

 特に父親は涙を流してその嬉しさを述べて行ったと聞いたとき,この様な事例に相遇した親の心情をより深く感受できるように我々自身の研鑚も大切だと感じた。

 つまり,事例に対しての標準化された検査などによる合理的理解の面も大切だが,我々自身のより人間的な感受性による理解もより以上に大切で,そのための我々自身のトレーニングにもたゆまぬ努力をせねばなるまい。


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