福島県教育センター所報ふくしま No.34(S52/1977.12) -022/026page
教 育 相 談 事 例 研 究(その3)
―学業不適応と異常行動を主訴として来所したA君(小3男)―
研究・相談部 吉 川 浩 先
1. 学級担任の主訴
学力が小学2年生程度で,国語・算数が特に劣っている。(WISC知能診断検査→測定不能)
作業化された活動でも完成することがほとんどないし,簡単なルールのゲーム的な体育の活動にも参加できない。
授業中,たえず席を離れ,四つん這いになって,机の下にもぐりこむ。
友人がいなく,休み時間にも1人ぼっちで,石をけったリしてすごす。
帰宅後,家の周辺で,ビールビンに石をぶっつけてこわす遊ぴなどをしていることが多い。
現在籍の普通学級3年にはついていけないと思うがどうか。
2. 母親の主訴
学力が低く,学校での行動に落着きがない。1年のころから,気にしていたが,担任のいうように特殊学級での指導を受けた方が良いのだろうか。
3. 生育歴
胎内期/父は家業不振(建築業)のためノイローゼになり入院。祖父母および失職中でぶらついている叔母・姉の7人家族を,母ひとりがかかえ,生活保護も受けず,家事・家業一切をとりしきっていた。
心身ともに緊張の連続であったが,幸いにして母体・胎児ともに健康を損うことはなかった。
周産期/異常なし。 3才児検診時/特記事項はない。 哺乳/母乳6か月まで,その後4才まで人工栄養(家業のため,祖母に委ねた) 始歩/1才2か月 始語/1才(マンマ) その他/0〜9か月に夜泣きが目立った。3才の時,左下肢をナタで傷ける(遊び中の誤ち。)顔に生傷が絶えなかった。5才時,保育所に入所したが,絵・書字はよくやったが,夜尿・頻尿がみられた。魚・肉類が嫌い。小学校に入学後,すり傷をでかして帰宅することがたぴたびであった(「お前の父ちゃん気ちがい」とやじられ,数人の上級生につき倒された。――転ぴ易い子ではあったが)
4. 諸検査およひ調査等
(1)人物テスト(S52,7.21,実施)
グッドイナフ法によれぱ,MA(精神年令)は6才9か月,IQは81 コピッツ法によれぱ,器質的徴標が4点で,器質的問題への疑診が濃い。また,情緒指標のチェックが4件で,不安と攻撃性が投影されている。(註) (2)WISC知能診断検査,(小生とのラポートもかなり深まり,課題的な場面での達成意欲も示し始めたので来所5度目で,S52.11.1.に実施)
結果は下図のとおりであった。 知能段階については,人物画テストの結果とほぼ一致(特に動作性IQと)し.中の下(境界線より高い)とみられる。
また,言語性IQ>動作性IQと,評価点のバラつき,人物画テストの器質的徴標のチェックから,器質障害への疑診がある。
(3)本人との面接や遊戯室での観察から
顔に擦り傷,その他の傷痕が無数,比較的新しいのに,右頬の擦り傷(帰宅途中,上級生にとりかこまれ,「お前の父ちゃん.なんして家にいないんだ」と問われたが,だまっていたら,一人が,うしろから押したので,ころんだとのこと)がある。 砂遊びに夢中,スコップで,砂車に砂を入れたり.一輪車で運ぶ etc。