福島県教育センター所報ふくしま No.37(S53/1978.8) -012/030page
教育相談
学業不振・不適応児の診断と援助指導について
学級担任による教育相談的アプロ―チ
教育相談部 三津間 安宏
1.はじめに
○ あるモノロ―グ-------あなたならどうする。
「ぼくだって学校には行きたいんだ。でもなんとなく行けないんだ。誰も信じてくれないが,朝になると本当に腹が痛むんだ。」
「どうして学校に行くとしゃべなくなるのでしょう。病院にも行ったし知能も調べてもらいました。家ではこんなに元気にお話しをするのに……」
「別に学校では反抗的でもなく無気カな態度でもない。しかし学カの低下がはなはだしい。親も教育熱心だし生育歴も行動観察でも問題はないのだが。」
これは,当相談室に訪れた登校拒否児,かん黙児の母親,学業不振児の担任教師の言である。要因はさまざまにからみ合い複雑であるが,現在―様に勉強に意欲を失い,学業に不適応を起こしている。各校でも少なからずみられる子どもたちである。あなた(学級担任)ならこうした子どもたちに,どう対処するだろうか……。
本年度も,県教育委員会学校教育指導の重点には,児童・生徒理解,教育相談・学業指導の充実等があげられている。それを受け,各校では計画的・組織的に研究実践を深めている。しかし,当教育センター教育相談講座を受講された先生方の反省には,次のような,直接日常の現場指導にかかわる切実な悩みや,問題点の指摘がなされている。注目したい。
○学業不振・不適応の原因をどのようにしてとらえ,どう指導に生かしていったらよいか。
○学業不振児を知能との関係からだけとらえ,学習のしかたや態度訓練指導にのみ方を入れても,不適応の解消にはならないのでほないか。
○学校あげて児童・生徒相談個票(教育相談児童・生徒理解個票)の作成にとりくみ,検査や観察記録を密にして指導にあたっているが,効果があがらないのはなぜか……等。
そこで今回は,学校現場にみられる問題点をあげながら,学業不振・不適応の形成的要因と簡単な診断法(特に心理的要因),そして,日常指導における学級担任の援助指導の態度に焦点をしぼって述べることにする。
2.学業不振不適応の形成的要因
(1)学業不振・不適応の意味
「学業不振・不適応児」という用語は,さまざまな立場や考え方から解釈され,明確に限定はできない。そこで,ここでは次のように規定しておく。
「現在持つている能方を出しきっていない子どもであって,しかも併発的に種々の問題行動,望ましくない性格特性を伴って学習生活に不適応を起こしている子どもである。―般に学カ成就値(学カ偏差値から知能偏差値を引いた数値)が―7以下のアンダーアチーバーの子どもをいう。従って脳の働きに病的な原因を持ち,そのために知能も学カも低いものや,低い知能を十分発揮していて,なおめざす学力に到達しない子どもについては考えない」
(2)学業不振・不適応の原因
学業不振・不適応という現象は,子どもがかかえているさまざまな問題の徴候として表れてくるからその原因も多方面にわたっている。脳の障害からのものを除き,予想される原因を列挙すると,およそ次のようになる。
1. 性格的要因(子ども自身に属するもの) ・知的な側面(基礎学カの不足等) ・身体的側面(言語・感覚・身体の異常等) ・心理的側面(情緒不安,社会適応性の未熟性格的な欠陥・過去の経験不足・学習意欲の 欠如・学習習慣・学習法の不適切等) 2. 環境的要因(とりまく環境に属するもの) ・家庭環境(親子関係,養育態度,文化的設備教育的関心度,学習習慣形成援助等)の障害 ・校環境(教師および友人関係,教師の指導技術,学習施設設備等)の不適切 ・域環境(教育的関心皮,文化的設備等)不良