福島県教育センター所報ふくしま No.38(S53/1978.10) -005/030page
小学校教材
「物質の溶解」の学習についての考察
2年教材「溶ける」を中心に
科学技術教育部 佐久間 善克
1 はじめに
小学校の新学習指導要領における化学的領域の大きな柱の―つは水溶液の化学である。この領域が学年と共にどのように展開されていくか系統性を見ると次のようになる。
「溶ける」ことを理解したうえで「水の温かさによって溶ける速さに違いがあることに気付かせる」学習へと発展していくので,ここで十分に「溶ける」現象を観察させなければならない。
この関係を更に詳しく学習指導要領の内容でみてみると,1年(1),2年(3),4年B(1)ア,6年B(1)ア,イ,ウでは溶質と溶媒の質的変化から,溶液の構成(溶質,溶媒,溶液),溶質の拡散と溶液の均一性,溶液の粒子性,溶液の化学性質などについて学習する。他方,2年(3),4年(1)イ,5年B(1)ア,イ,ウ,エでは主として溶解する物質の量的な面から追求して,質量の保存と溶液の粒子性,溶解の限度と溶液から溶質の分離などについて学習することになっている。
以上のような系統的な学習の中て,各学年でどのような内容をどの程度までおさえなければならないのか。また,そのためにはどのような観察・実験が有効なのかを発達段階に即して考える事が大切になってくる。これらについて2年生の教材を中心にとり上げて述べてみたい。
1年のときは,自然にある植物の中に含まれる汁を取り出して遊ぷことが中心なので,物を溶かして実際に溶液をつくるのは2年からである。
学習指導要領に述べられている 「物と水の変わる様子」というのは,溶けるもの(溶質)と熔かす水(溶媒)の両方の変化を観察しなければならない。溶質の変化は,大きさや形の変化などでとらえさせることができるだろうし溶媒の変化は,色,臭い,手触り,味の変化などで具体的にとらえさせなければならない。
この学習で用いられる素材は,前述した学習目標に到達できるように,溶けていく様子や溶けた後の様子を的確にとらえやすい物が望ましい。また,今回の新学習指導要領では従来のようにせっけんと素材を指定していないので,児童の思考,技術,地域性を考えて内容を理解させるために危険のない最良の素材を指導者が求めるよう心がける必要がある。
従来から用いられてきたせっけんはしゃぽん玉を作って遊びながら学習ができるので興味があり,身近かな経験から取り扱いやすい素材であるので,これからも取り上げられていくと思う。しかしせっけんは水に溶かした場合コロイド溶液になってしまうので,小学校の溶液の化学の導入としてここから入るのは難かしいのではなかろうか。しかも,コロイド溶液は4年生のデンプンの溶解のところで出てくるくらいで,小・中学校を通してあまり取り扱われていない。上学年では,ほう酸,食塩などの水溶液で学習するので,学習の―貫性から考えても,真溶液を取りあげていきたい。真溶液のあとでせっけんのような溶けかたも例示したほうがよいのではないだろうか。
この学習の導入部分で児童に直接取り扱わせる素材の望ましい条件としては,次のようなものが考えられる。
1) ある程度の大きさをもった粉末状でない固体
2) 真溶液をつくるもの
3) 視覚に訴えられるように着色してあるもの
4) 溶解速度が大きく,かつ溶解度の大きいもの
5) 日常生活から余りかけはなれたものでないものこれらの条件から素材はかなり限定されてくる。条件の 3) を犠牲にした場合は,氷砂糖,ザラメ糖などが最適であると考えられる。着色したものには,ミルク成分の入っていないあめ玉 (着色が濃い程よい)などが良