福島県教育センター所報ふくしま No.39(S53/1978.12) -008/030page
生徒指導
自主性を育てる生徒指導
経営研究部 原 洋
はじめに
〔事例1〕 母親がこどもの勉強部屋のストーブをつけ忘れた。二階にあがったこども (高校3年,受験生) 「ストーブもつけてない部屋で勉強などしてやらん」母親「私がわるかった,今すぐつけて あげるから気嫌を直して勉強してくれ」とたのんだ。父親「勉強もストーブも自分のことだから自分 でやったらどうだ。」と言ったら,こどもが答えた。「これはお母さんと僕の問題だ。お父さんには 関係のないこと,よけいな口出しはしないでくれ。」 〔「高校教育展望」より〕 上の事例をみて「どこかが間違っている」と考えない教師はいないだろう。その論理の誤りを批判することはやさしい。しかし,〔事例1〕のような生徒や家庭がふえていることは事実である。
耐性のとぼしい生徒,学習に意欲を失った生徒,母親に暴力をふるう生徒,さらには登校拒否症や神経症におちいる生徒がふえている。このような現状に対し,われわれ教師はどのように生徒を理解し,どのように指導すればよいのか,切実な課題となっている。
1. 青少年をとりまく社会は大きく変っている
昭和30年から50年にいたる20年は,戦後日本の社会経済が質的に最も大きな変動のあった時期である。この20年間に,例えば,国民総生産額で17倍,輸出で28倍,輸入で23倍にふえ,産業構造の面からみると農林漁業などの第1次産業が減少して製造業,サービス業などの第2次,第3次産業が激増し,家族従業者が減り被雇用者がふえている。生活水準でみれぱ平均的産業従事者の現金所得でほぼ10倍に,世帯の貯蓄額で約6倍にふえている。農村の過疎化に対し都市化現象がすすんでほぼ10人の中8人は都市部に生活するようになった。核家族数は昭和30年の1037万世帯から昭和50年にはほぼ2倍の2007万世帯にふえ,高校進学率は昭和29年に50%をこえ,45年に80%,そして今日93%をこえるに至った。
このようないわば「先進国型」社会経済の短時目における変動は,社会的連帯性の弛緩,価値観の多様性,離婚率の増加,粗暴犯・風俗犯の増加,自殺や精神障害の増加,射倖性傾向,青少年の非行など,さまざまな病的社会現象となって現れている。青少年の意識や行動もこれらの社会変動から大きな影響をうけないわけにはゆかない。親は戦前の価値規準ではおしはかれないこどもとの意識や行動のづれにとまどっている。こどもとの接し方においても,例えば父親は父性を喪失しこどもを放任するか「今どきの若いものは」と一方的にきめつけるかになりがちであり,母親ははれものにさわるようにこどもに接するか過熱する進学競争にわが子だけはおくれさせまいと過保護,過干渉におちいりやすい。
2.生徒指導のねらい
以上のような現状をふまえ,教育課程審議会の答申には
(1) 人間性豊かな児童生徒を育てること
(2) ゆとりあるしかも充実した学校生活が送れるようにすること
(3) 国民として必要とされる基礎的基本的な内容を重視するとともに児童の個性や能力に応じた教育が行われるようにすること
の3つのねらいがかかげられた。このねらいに則して例えば,高等学校学習指導要領は特別活動の目標として次のようにのべている。
望ましい集団活動を通して,心身の調和のとれた発達を図り,個性を伸長するとともに,集団の一員としての自覚を育て,将来において 自己を正しく生かす能力 を養う。 生徒指導は上図に示すように,教師の訓育と受容的態度が最も効果的に集団と個別指導の場で発揮される教育作用であり,生徒が「自己を正しく生かす能力」(過去から末来へと生きてゆく自分が人生の行動や体験の上でどのような変化があっても,つねに同じ自分がそれを行っているのだと冷静に受けとめることが出来る能力,自己同一性= identity )の確立を目標としている。教師は