福島県教育センター所報ふくしま No.39(S53/1978.12) -009/030page

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それを援助してやることが出来,またやらねぱならない。自発性,自律性,自主性,主体性というのもこの identity 発達の一面をとらえた概念と考えられる。

3. 人格形成と態度変容

生徒に「やる気」をおこさせ,それが行動となって現れる(態度変容)はどうすれば可能なのか。

下図に示すように行動を規制する人格( personality )には3つの領域が考えられる。

行動を規制する人格

「やる気」は人格の感情的領域にうったえるのが最も効果的とされる。教師が上から一方的に知識として教えるよりも,対等な人間として共に求めるという「人間的ふれ合い」の中から生れる。従来は,〔教える〕→〔理解する〕→〔反省する〕→〔やらない〕という指導のパターンのくり返しがあまりにも多すぎたように思われる。

4. 自主性の発達課題とその問題点

エリクソンが自主性の発達課題としてあげているものを就学年令に応じて分ければ

(1)乳児期―主として母親とのスキンシップを通して信頼感をえてゆく。

 (抱きかかえて授乳される体験の少なかったこどもに情緒障害児が非常に多いことが指摘されている。)

(2)幼児期―ものを獲得したり手放したりする成功や失敗の体験を通して自立感をえてゆく。

 (成長してもこの段階の小児万能感から抜けきれない青年がふえていることが問題とされている。)

(3)小学校・中学校初期―思い通りにする,まねをする,仲間と遊ぶ,冒険するなどの経験を通して積極性・活動性,自発性を身につける。

 (いわゆる“ギヤング・エイジ”をもたなかった児童,遊びをしらないこどもの反社会的行動が問題となっている。)

(4)中学校後期・高等学校期―学校集団や一般の社会集団との接しょくの体験を通して自已の存在意義に悩みながらも自已同一性= identity を確立してゆく。

 (衝動的・刹那的で,自己の存在理由を人生観や世界観に結びつけて考えようとしたい青年がふえている。)

5. 自主性を育てる教師

発達段階ですでにさまざまの原因で自主性発達の未熟化が問題とされ,「やる気」をおこさせる指導は教師とこどもとの「人間的ふれ合い」から生れるのであれぱ教師は日常どのような態度で生徒に接すればよいのか。

〔事例2〕いくら注意しても生徒の遅刻が減らないH高校で教師が輪番で校門に立って遅れてくる生 徒に注意することにした。それでも遅刻はへらなかった。ある寒い朝,手足をこすりながら校門に立っ ている教師の姿にうたれた一人の生徒が学校新聞に投書した。「遅刻についてもっと真剣に考えよう」 この投書がきっかけに遅刻する生徒が急速に減りだした。
〔朝日新聞「いま学校で」より〕

〔事例2〕は教師の人間的態度が一人の生徒に感動を与え,自主的に規律を守ろうとする共感の輪がひろがっていったことを示す事例といえよう。

生徒との人間的ふれ合いを重んずる教師の態度としてそのチェックポイントとなるいくつかの要素をひろってみよう。

(1)気楽に生徒に話しかける教師

(2)ユーモアのある教師

(3)間違いを生徒の前で素直にあやまれる教師

(4)生徒と一しょに笑える教師

(5)生徒をほめることが出来る教師

(6)生徒の訴えを「ウン」「ウン」と聴ける教師

 (間違った答や行動を是認することではなく,生徒の今ある心情をあるがままに理解する)

(7)答は否定しても人格まで否定しない教師

 (誤答も大切にする)

(8)授業で生徒に感動を与えることが出来る教師

 (何といっても中高生の学校での生活は大部分が授業である。一時間一時間の授業で生徒に感動を与え,親和感や敬愛の関係を生徒との間に樹立しえない教師は特別活動やクラブ活動の場だけでふれ合おうとしても効果はうすい。「授業で感動を与える」とは,別に授業中,いわゆるお説教をすることよりも,教材の適切な選択により,教材の学習を通して生徒と感動を共にすることであろう。)

6. きまりを守るということ

コールバークは,人は何のために規則に従うのか,その動機の発達段階を区分して

(1)罰と服従の志向―罰をさけるために従う。

(2)道徳的快楽主義―賞をえ,むくわれようとして同調する。


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