福島県教育センター所報ふくしま No.39(S53/1978.12) -010/030page

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(3)「よい子」の道徳―他人による非難・嫌悪をさけるために同調する。

(4)法と秩序の志向―法的制裁を重んじ又はさけようとして従う。

(5)自己受容の道徳―契約,個人の権利あるいは民主的ルールとして規則を是認しこれに従う。

(6)良心の志向―自責の念から同調する。

の6つの段階とした。

自主的にきまりを守る生徒を育てようとする場合,結果からみて,又は外面上はきちんときまりが守られているとしても,その動機が(1)〜(4)の場合は自主的に守られているとは言い難い。「官主性を育てる教育」といいながら,結果や成績を急ぎ過ぎればかえって自主性の発達をそこねることにもなりかねない。

思想史的にみれば,日本の社会では(6)の自責の念から法や規則を守るという思想はうすいと思われる。それはキリスト教的宗教教育の土壌の上に発達して来たものだからである。(4)の法の権威や秩序志向の発想は,法治主義の国民の遵法精神として教育されて来たもので,今日の青少年の法意識としてもかなり強いと思われる。この点,総理府・青少年対策本部の53年,3月に公表された青少年の意識調査でも,日本の青年(18才〜20才)の意識が一方において利己的である反面,アメリカ,西ドイツの青年にくらべ,権力や法秩序志向の傾向がつよく公共心( public mind )の中でもとりわけ市民意織( civic mind )が低いことが指摘されている。

これに対し,(5)の自己受容の遵法精神はルソーやロックの社会契約説によって理論づけられた近代市民法の原理であり,民主主義社会の遵法の原理とされるものである。すなわち,法は対等の個人間の自由意志の合致(契約)によって自分達の権利を守るために出来たものである。だから守るのだ。という思想である。社会契約説にかぎらず,多数決の原理にせよ権力分立の原理にせよ,民主主義社会のルールは経験によって生れたものが多い。

民主的なルールを自主的にまもる態度を生徒に身につけさせるには,経験を重んずべきである。例えば,

(1)規則には生徒にまかせられない学校独自のものもあるが生徒の生活の自律的きまり,例えば生徒会々則,部,クラブ活動の計画やルール,などは生徒につくる経験をさせる。

(2)身近な日常の生活のルールをつくり観念的な規則はつくらない。

(3)守れなかった経験は守れた経験と同じく大事にする。

 (はじめから守れたいものを非難する雰囲気では守れなかったものは発言しなくなる。)

(4)自己顕示欲だけの発言や第三者的発言をなくし,自分の問題として内面化するよう指導する。

(5)守れなかったものを仲間で罰したり,公表したりすることはさけるように指導する。

(6)守れるかどうかの可能性を充分討議し,守れない規則はつくらない。又,その妥当性をつねに検討する。

(7)結果だけを急がず,生徒の心理的動機や過程を大切に,又,つまづきの経験を大事に時間をかけて指導する。

等が必要とされるだろう。

7. 生徒の心理的動機や過程を大事にする集団指導

福岡教育大附属・久留米中学校は学校全体で生徒の心理的動機や過程を大事にする集団指導にとりくみ,すぐれた数々の実践報告を公表している。その詳細は参考文献(3)を参照されたい。ここにはその特色だけをいくつかあげてみよう。

(1)指導原理の共通理解がある。

(2)構造化された指導の「手だて」がある。

(3)一例として,「集団学習にとりくもう」という話合いの記録をみると,生徒全員の学習参加をめざし,

 ア. 発言が少ない,かたよっている原因を徹底して話合っている。

 イ. 「間違う」ことの意義を発堀している。

 ウ. 「とっぴな発言」を笑うことから「個性的発言」と考える態度変容に成功している。

 工. 「発言出来ないのは性格か」という共通の「つまづき」をつきつめその克服に成功している。

 オ. 生徒の話合いから出た問題点を教師も授業改造に積極的にとり上げている。

 カ. いわゆる「発言ごっこ」に終らず,発言が学習の原理と深くかかわることを自覚させることに成功している。

こうら列するといかにも無味乾燥だが,生徒のいきいきとした話合いの記録は感動的ですらある。

    ―参考文献―
(1) 吉田昇・外「現代青年の意識と行動」NHKブックス  (日本放送出版協会)
(2) 青少年の人格形成に影響を及ぼす諸要因に関する研究調査」  (総理府青少年対策本部)
(3) 福岡教育大学附属久留米中学校著「『人間らしさ=善さ』を育てる過程像志向の教育」  (東洋館出版杜)


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