福島県教育センター所報ふくしま No.39(S53/1978.12) -011/030page

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生徒実習雑感

科学技術教育部  桜井正一

秋の日ざしに美しく映えた紅葉の季節も去り,吾妻の山並みに白雪をいただく厳しい冬の日がやってきた。

この頃になると,春や秋に集中して多忙だった生徒実習は峠を越し,一段落となる。

周知のとおり,当センターでは,例年学校側からの要請により,おもに県立高校の商業科,工業科の生徒を対象として実習を行っており,今年度は,年間を通して80日ほどの生徒実習が行われた。

通所する地区は,県内の各地におよび,いろいろなカラーをもった,学校や学科の生徒達が来所する。

申すまでもなく,当センターでの生徒実習は,授業の一環であり,教室の延長として実施するものである。

聞くところによると,ある一部の学校では,授業への興味と関心を示さない生徒が多く,学習意欲の低下を嘆く声があり,学力低下が問題となっているという。

しかし,当センターへ通所して電子計算機で実習をしている生徒の学習への興味や関心は非常に高く,実習に取組む生徒の表情は真剣そのものであり,目がきらきらと輝いている。引率教員が驚くほどの反応を示す。

また,休けい時間を忘れてテープせん孔に夢中になる生徒,昼食もそこそこにしてカードせん孔に熱中する生徒,さらに,プログラムに工夫を凝らして実習終了後も残って仕上げたいと申し出る生徒,いずれもその熱意は講義式の授業では見られないものがあり,つくづく感心させられる。

アンケートによると,「もっと実習したかった」,「電子計算機に対する関心が深まった」,「やればやる程面白くなり,とりつかれてしまう」とか,「夢中になっているせいか,実習時間が短く感じられ,楽しい授業であった」,「センターへ電子計算機実習に行くのが本当に待ち遠しく,もっと実習時間が欲しい」など枚挙にいとまがない。

一体何が生徒の情熱をかきたてたのであろうか。ひとつには,センターでの実習という環境の変化と新しいものに対する興味がそうさせたものであろう。また,実習を主体とした内容が興味と関心をより一層深めたのかも知れない。

しかし,それよりも大きな原因は,「努力する→出来ない」の反覆過程からやがて,「努力する→出来る」に至る「努力すればできるのだ」,「工夫すれぱ結果としてあらわれる」という成功の喜びと自信によるものであろう。

今日まで,あまりにも高度で縁遠いものと思っていた電子計算機が,自分達の手によって,か働できたという喜びと自信は,生徒にとって尊い体験なのである。

去る10月下旬,A工業高校の女子生徒が当センターに来所した。1クラスを数班に分け,班ごとにテーマを設定して,フオートラン言語により実習を展開するため遠隔地から貸切バスで訪れたのである。

この学校では,3年の実習6単位のうち2単位を電子計算機による情報処理教育にあてているという。

センターでの課題は,グループごとに,生徒の実力に応じたものであり,上位のグループは,かなりのレベルのものを選定している。

指導教員の4名は,いずれも若く,20代〜30代の前半の年齢層であり,生徒の指導は,まことに熱心である。実習している生徒も終始一貫生き生きと学習に取り組みその意欲はすぱらしい。講義式の授業などでは見られない喜ぴがあるようだ。

実習でわからないところを質問をしている生徒と教員のコミニケーションには,単なる技術や知識の習得をこえて,問題解決に直面した人間同志の全人格的触れあいがある。その姿を眺めていると,魂の触れ合いがひしひしと感じられ,授業による人間形成という教育の目標を達成し得る格好の場であると痛感した。

A工業高校では,教職員一丸となって生徒の学習意欲の向上につとめ,その対策の一環としてコンピユータの導入を計ったのである。そして,努力の積み重ねの結果その成果があがってきたのだという。まことに,喜ぱしいことである。

センターでの生徒実習により,学習への興味や関心を高め,さらに創造の喜ぴを追求し,成功感によって自信を深め,やがては学習意欲の向上につながっていくならば,われわれの本懐とするところである。最近特に体験学習の強化が叫ぱれるゆえんもここにあるのではないだろうか。

今後とも生徒実習を通して,今日を全うしたという充実感と満足感を生徒に与え,明日もかくありたいと願う生徒の夢を大切にかなえてやり,常に可能性に挑戦しているかれらの期待に応えてやりたい。


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