福島県教育センター所報ふくしま No.41(S54/1979.6) -006/038page
サンスを遂行することである。真正ヒューマニズム は,人間の絶対化を排し,人と他(人間と自然―生 物)と共存共栄を果たすものでなければならない。 真正ヒューマニズムを原理として,世界史の創造に つとめる方向,これこそ問題解決の方向でなければ ならない。ここに,21世紀への国民教育を目ざす教 育課程の根源的原理次元を自覚しなくてはならない であろう。
4.新教育課程実施にこめる願い
新しい教育課程による教育が展開していくなかに, 筆者はつぎのような願いをこめたい。本当に新しい 教育課程による教育が,世界史の新たな原理に支え られ,真に21世紀への国民教育であるためには,深 くしかも日常的に配慮され実践されることを願うも のであるが,それは,まず,新教育課程による教育 の目ざす望ましい人間像は,決して単に被教育者に のみ期待されるべきものではなくて,教師その人お よび世の観たち大人たちがともに目ざさなければな らないものとして,自覚実践しなければならないと いうことである。それには,どのような方策を必要 とするであろうか。これは学校教育を直接担当する 側が用意しなければならない。その理由は,すでに 明らかなように,教育課程が学校教育のものである からであるが,学校の中に限定していでは,目ざす 人間像への育成は十分に果し得ないばかりか,望ま しからぬ時流に押し流されてしまうことになりかね ないのであるから,学校側から,家庭と地域社会に 訴えかけなければならない故にである。
方策はいろいろくふうされるであろう。つぎのよ うなものはいかがであろうか。
(1) PTAの研修計画の中に,望ましい人間像にか かわる学習を取り入れて,継続して実施する。そ の内容には,望ましい人間像の意味するもの,そ の根底にある原理について,お互い承知するとと もに,親としてどのように振る舞うべきかを探究 することが入れられるべきであろう。
(2) 社会教育との連携をはかり,成人学級などの学 習内容に取り入れるようにする。
・ 教師自身については,既に実施されてもいるで あろうが,
(1) 校内現職教育の主題に,望ましい人間像および その根本原理を取り上げ,十分検討吟味し,日常 生活の指導にまで具体的に配慮を及ぼすように努 めるべきである。
(2) 地域の研修や教育センターの研修の主題として, 取り組むようにありたいものである。
さて,真正ヒューマニズムを育てあげていくにつ いて,日常どのように配慮すべきであろうか。
真正ヒューマニズムは,思いやり,いつくしみの 心のはたらきを中心としている。それは愛のあらわ れである。望ましい児童生徒像の資質内容の中に, 自然愛や人間愛が述べられ,さらに,家族愛,郷土 愛,祖国愛等が述べられている所以である。この愛 のあり方は,より高くより純なるものに高められて いかなければならない。それは人格美の方向にすす みゆくのでなければならない。われわれは,日常, 人と自然(人間以外の生物をふくめて)とに対する 思いやり,いつくしみの心を育てることに努め,そ れをより美しいあり方にみちびくことに努めよう。
ところで,愛は良心のみちぴきによって,正しく 発露し,より美しいあり方にすすみゆくのであるこ とに思いを致し,日常良心をみがく教育につとめる のでなければならない。知識や技能や態度は,愛に 根ざし,良心の命ずるところに従って発動し,人格 美の内実となるのでなければならない。
新しい教育過程による教育は,日常このようなあ り方において展開されること。愛と美と良心と,そ れらが日頃いつも身辺的に配慮されていること。か くあれかしと願うものである。
注1 中沢正寿―人間性豊かな生徒の育成を目指す 教育課程の編成,中等教育資料No.395,昭和54年4月号,P.5。 注2 清水 博―生命を捉えなおす,中公新書 503,昭和53年5月25日,P.254。