福島県教育センター所報ふくしま No.43(S54/1979.10) -007/034page

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3 硫酸銅水溶液は,なぜ酸性を示すのか。

 小学校の教科書に,硫酸銅水溶液は酸性の水溶液であると分類されている。酸でもアルカリでもなくて,酸・塩基の中和によって出来ると考えられる塩(えん)の硫酸銅が,なぜ酸性を示すのだろうか。
 高等学校の教科書では「強酸(この場合H 2 SO 4 )と弱塩基(この場合Cu(OH) 2 )が中和して出来た正塩(この場合CuSO 4 )の水溶液は,加水分解して酸性を示す。」と説明しているが,少し詳しく考えてみよう。
 銅イオンCu 2+ は水の中に存在するとき4個の水分子(H 2 0)に囲まれた水和イオン(アクアイオン)で[Cu(H 2 0) 4 ] 2+ (テトラアクア銅(II)イオン)と表わされる。硫酸銅の結晶や水溶液の特有な青色は[Cu(H 2 0) 4 ] 2+ の色で,Cu 2+ は無色である。
 金属イオンに結合している水分子は金属イオンの強い電子吸引を受けているので,この水分子中のH原子は,溶媒中の水分子のH原子よりH + として離れ易いので簡単に分れてしまう。
 [Cu(H 2 0) 4 ] 2+ +H 2 0 ⇔ [Cu(OH)(H 2 0) 3 ] + +H 3 0 +
この結果,溶液中にH 3 0 + が多くなり酸性を示す。
 硫酸銅水溶液だけでなく,よく出て来るAl 3+ ,Fl 3+ ,Zn 2+ などの金属イオンも強く水分子を結合しているので同じ変化を起こしてこれらの塩は酸性を示す。
 水溶液中でH + を生成する割合の大小を表わすものに酸の解離定数(Kaで示す)があり,Kaの大きい酸ほど酸としての働きが強い。
物質またはイオン Ka
鉄イオン([Fe(H 2 0) 6 ] 3+ 2.5×10 -3
リン酸(H 3 PO 4 7.1×10 -3
酢 酸(CH 3 COOH) 1.8×10 -5
銅イオン([Cu(H 2 0) 4 ] 2+ 1.58×10 -7
炭 酸(H 2 CO 3 4.5×10 -7
表1 酸の解離定数 Ka
 Kaの値から[Fe(H 2 0) 6 ] 3+ はリン酸よりも,[Cu(H 2 0) 4 ] 2+ は炭酸よりもそれぞれ強い酸性を示すことがわかる。0.1M−CuSO 4 水溶液のPHは約3.9で,0.0001M−HClのPHにほぼ等しく,0.001M−FeCl 3 水溶液のPHは約3.1で,0.001M−HClの酸性に相当し,中程度の強さの酸性を示す。
 小学校で酸性を示す物質を化学薬品以外に例示したいときには,日常食べている物質を取り上げると子供はかなり興味を示す。代表的なものとして,レモンジュース(約2.3),食酢(約3),いちごジャム,オレンジジュース(約4前後), ビール(約4.3)などがある。レモンとか梅などの酸味を経験させることによって,酸,酸性を良く理解させることが出来ると思う。

4 中和滴定曲線はどんな形をとるのか。

 小学校・中学校・高等学校を通して酸・塩基の中和反応が取り扱われている。高等学校においては,酸・塩基の中和滴定によって食酢中の酸成分の容量分析程度で終っていたのが,最近は中和滴定曲線の作成が実験項目として取り上げられ,酸・塩基の学習に利用されることがある。
 中和滴定曲線を実験的に求めることは勿論大切であるが,実験結果を検討する場合,或いは理論的に取り扱う場合には,理論値を求める必要がある。しかし,計算で求めるときには二次式または三次式を解かなければならないので,理論値を得ないまま実験を行うことがある。最近はプログラム計算ができる卓上電子計算機を利用することができるので是非理論値を求めてもらいたい。
(1)酢酸と水酸化ナトリウムの中和
 水溶液中の〔H + 〕を求め式(1)に代入してPHを 求める。酢酸の解離平衡や溶液中の各イオンの濃度などの関係は各々成書に拠ることにして,必要な溶液中の〔H + 〕だけを示すと次式のようになる。
 [H] 3 +((VOH・MOH/(VH+VOH))+K W )[H + ] 2 +[K H ((VOH・MOH−VH・MH)/(VH+VOH))−K W ][H + ]−K W ・K H  = 0 (3)
 但し
   VH 酢酸の体積
   VOH NaOHの体積
   MH 酢酸の濃度
   MOH NaOHの濃度
   K H  酢酸の電離定数 1.75×10 -5
   K W  水のイオン積 1.0×10 -14
 しかし,この式はアルカリ性側になると誤差が大きくなるので補正しなければならない。
 1.0M−CH 3 COOH 25.Omlに1.0M−NaOH を滴下した時のPHの計算値と高校理科実技講座で実施した実験値を表2に示す。なお,計算は当センターのコンピューターを利用し,Newton-Raphson法によって求めた。実験は市販の規定濃度溶液および東亜電波のHM−5BのPH計(精度±0.03PH)を用いた。


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