福島県教育センター所報ふくしま No.44(S54/1979.12) -019/034page
ているか。といった観点から問題児かどうかを判断することが大切です。しかし,これは難しいことです。その人のおかれている立場によっても見方が異なることもあります。例えば,ウイックマンは,教師は盗みや不作法といった反社会的行動や不道徳な行動を重視するのに対し精神衛生専門家はどちらかと言えば非社会的,退行的行動を重視する傾向があると指摘しています。
教師が問題児と接する場合の基本的な態度としては次のことが大切になってくるでしょう。
(1)問題児といっても基本的には普通児と変りない,かけがえのない個人である,という観点から接すること。
(2)問題児自身を価値的にだけ評価しないこと。
法律や道徳からみれば許されない行動であっても,これを善悪の基準からだけみるのではその生徒の指導や治療は不可能です。病気の治療に病気にかかったことの「よしあし」や責任を追求することがナンセンスであると同じく,問題児は,ある種の情緒的,行動的病人であるとみるのが教育的指導の立場と言えるでしょう。
(3)生徒の可能性を信ずること。
事例によっては,「この生徒に改善の可能性があるのか」と,絶望的にさえ思われる事もあるかもしれません。しかし,「少年の非行は大人の犯罪の予備軍ではない」と も言われています。青少年期には青少年期に特有の原因から起る問題行動がむしろ多いことを考え,その原因の解明をはかることが大切と言えるでしょう。
(4)生徒の認知内容を受容的態度で理解すること。
生徒の行動は,客観的行動基準によるよりもむしろ主観的な認知内容(生徒が自己の環境をどう思い感じているか)によって左右されます。したがってその生徒の認知内容を共感的(受容的)態度で理解してやることが大切です。その生徒の問題行動をその生徒とともに努力しながらのりこえていこうとする教師の態度が,その生徒の態度変容にとって最も効果的だと言えます。
(5)カウンセリングの技術を身につけること。
問題児の指導にあたっては,個人にせよ集団にせよカウンセリングが中心となるでしょう。カウンセリングを行うにあたっては上に述べた基本的態度のほかに面接や相談の技術の修得が必要です。校内外の研修によりその技術に熟練することがのぞまれます。また,校内の指導体制の有機的連携や,いつでも利用出来る資料の累積保管など,カウンセリングに必要な条件整備が必要です。
〔問い 14〕 問題行動の早期発見ということがよく言われますが………。
〔答 え〕 非行や自殺の予防として,ごく初期のうちにその兆候を発見し,あるいは,潜在している因子のうちからそれを予測出来たら,と考えるのが早期発見の課題です。
グリュック夫妻の非行予測の研究は,問題行動を6つのレベルに分け,非行,ぐ犯行動の兆候としては欠席,怠学,カンニング,反抗などの問題行動を,またその前ぶれとしては,孤立,ボス化,誇示,乱暴,無口などの不適応行動の兆候をあげています。さらにその前提として,性格特性や幼児期の環境因子などにさかのぼって非行を予測しようとしています。このほか,教師の実践的研究からの問題行動のチェックリストや性格診断を基礎とする問題行動診断テストなどが出来ています。しかし,現に非行やぐ犯行為をもつ生徒がその前の兆候群をもつことが多いとは言えますが,反対に,それ等の兆候群をもつ生徒が必ず非行やぐ犯行為にはしるとは言えません。
また,少年の自殺については,その前兆として必ず,「死にたい」「死にたくない」「誰かにこの気持を知ってもらいたい」といった救いを求める信号(cry for help)を示すと言われています。
要するに,教師が日常の生徒の学習活動を通して,たえずその生徒の行動を観察し,その生徒の考えや性格を内面から理解していることが,早期発見には最も有効な方法だとも言えるでしょう。
訂 正 所報 42号15頁 「生徒指導」の用語について,「小学校,高等学校の総則には特に記述がありません」という箇所は誤りですので訂正いたします。