福島県教育センター所報ふくしま No.47(S55/1980.8) -013/034page

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<教育相談>

学校で口をきかない子供(場面鍼黙児)の援助指導

−事例研究を試みて−

教育相談部   佐 藤 弘 幸

1.はじめに

 「家ではよくしゃべり,近所の子供たちとも元気に遊ぶのに,学校に行くとさっぱりしゃべらなくなる。いったい,どうしてなのでしょう。」と当相談室を訪れるケースが時々みられる。

 家では,普通の子供と何らかわらないために,親や教師は,「なぜ話さないの」「だまっていないではっきり話してよ」等と,なんとかして口をきかせようと努力をする。しかし,話しかければかける程何の反応も示さなくなるし,かえって,表情に緊張感がみられ,貝が口を閉ざしたように黙ってしまうのである。

 このような子供を緘黙児(かんもくじ)といい,特に,学校といった特定の場所(場面)にいくと,緊張状態に陥りだんまり病になってしまうものを場面緘黙と呼び,心の病が原因になっている。

 本稿では,事例研究での試みを中心に,場面緘黙児の行動特性や援助指導について述べてみたい。

2.口をきかない子供の行動特性

 学校で口をきかない子供といっても,教師とは少しは話をするが,級友とはまったく話さない。逆に数人の級友とは「はい」「いいえ」程度の口をきくが,教師とはまったく話さない等,様々である。しかし,緘黙児には,共通した行動特性がみられる。

(1)口もきかず行動も抑制的で,視線があうとすぐ そらし,他人をさけようとする。

(2)集団にうちとけず,表情や態度にかたさがみら れ,動作がぎこちない。

(3)休み時間はうろうろしているだけで,友人との 遊びに参加できない。

(4)授業中はじっと座っているだけで,ノートする こともしないで,好き勝手な勉強をし,体育の学 習には参加できない。

(5)心理的な圧迫を感じると,緊張が強く,体が硬 直し発汗することもある。

 以上のような行動特性がみられるのは,しゃべらないことによって,心理的な安定をはかっているからだと考えられる。指導にあたっては,子供の行動特性や原因を明らかにしながら,取り組むことが大事であろう。

3.場面緘黙児への取り組みの事例

(1)事例の概要

 小学校3年女子,H子

 この事例は,小学校1年に入学して以来,教師や 友人とまったく口をきかず,授業中に指名されても, 自分の考えをはっきり答えることができない。もち ろん,「はい」の返事もできず,集団生活にうちと けない。

(2)症状形成の背景

 本人が口をきかなくなった背景には,次のような理由が大きく影響していると思われる。

1. 乳児期にベビーホームにあずけられ,愛情に 満ちた両親との接触がなく,生き生きと育って いない。

2. 放任的な養育態度のため,自我がゆがめられ 引っ込み思案なところが多く,耐性の弱い子供 として育っている。

3. 両親が共稼ぎのため,家で過ごすことが多く 社会的経験不足のままに成長している。

4. 友人が少なく集団参加への技術が未熟で,集 団への適応に苦労している。

5.1年生の時,会話したことを友人に笑われた 心の痛手が作用し,しゃべらないことで自分自 身を防衛している。

 以上のことから,H子が緘黙状態を引き起こして いる原因としては,親の養育態度のまずさが,自我 を未熟なものにし,その影響として,集団場面で 不安や緊張を感じやすいパーソナリティが形成され たと考えられる。すなわち自我の未熟さ,傷つきや すさが,絶えず防衛反応を必要とし,その手段とし て緘黙状態へと発展していると思われる。

(3)H子への援助指導

1. 基本的態度


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