福島県教育センター所報ふくしま No.47(S55/1980.8) -014/034page

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 一般に,学校で口をきかない子供は,不安感や 緊張感から生ずる自己防衛機制が強く働いている のが特徴である。従って,援助指導にあたっては, 最初から口をきかせようと意図して,あれこれと 追っていく方法は効果がなく,かえって本人を窮 地に追いこみかねない。そこで,指導にあたって は,不安感や緊張感をやわらげることを中心に,

ア. 口をきかない原因を取り除いてやること 

イ. 集団場面に参加するための耐性や自信を身につけ させることが考えられる。

 いずれにしろ,場面緘黙児の場合は,学校における集団生活場面に問題が生じているので,学級における担任の役割が重要になってこよう。言葉の応答を期待することよりも,本人との信頼関係を深め,情緒の安定を図ることを重点に,じっくり取り組むことが指導の基本になる。

 H子の場合も,口をきかせようと単刀直入にか かわるのではなく,むしろ,無言のままでよいか ら,学級の中に自然にとけこめるような配慮が, 指導のポイントになると考えられる。

2. 援助指導プラン

具体的に,援助指導にあたっては,

ア. 遊戯療法によって表現活動を助長し,発語の効用や表情表出の喜びを身につけさせる。

イ. 親とのカウンセリングを通して,子供との接し方を改善し,対人接触の場を拡大しながら社会性の育成に努めさせる。

ウ.表1のような援助指導プランを学級担任に依頼し,実躇してもらうことによって集団活動への適応をはかる。

 のような三つのプランによって援助することを 試みた。特に,ウ.のプランは,援助活動に効果を 発揮することができた。なお,場面緘黙児には, 前述のように共通した行動特性がみられるので, 表1の援助指導プランは,多くの場面緘黙児の指 導に適用できると思われるので参考に供したい。

段落 ねらい 教師の働きかけ 留意事項
1.





心の安定をはかり教師との関係を深める。
  1. 視線があったら笑顔をみせ,やさしく見守る。 
  2. ことばをかけなからやさしい表情で接する。 
  • 頭をなでる。 
  • 背中や肩にさわる。
  • 手をつないで歩く
  • ラボートをつくることが第一のねらいで あるから,あせらずゆっくり子どもの心 に接近する。 
  • 子どもに遊んでもらうつもりで相手をする。

 

2.対






少人数の子供たちと関係が結べるようにする。
  1. 一緒に行動する機会を多くする。 ・仕事(清掃・給食当番など) ・遊び(休み時間,業間運動)  体育・図工・・・・
  2. 特定の子と遊ばせる(グループ) 
  • 放課後教室で遊ぶ。 
  • 一たん帰宅してから再登校させる。

 

  • 一緒に遊び,一緒に仕事をすることを通して子供の心にふれ,気持ちに共感し意志表示ができるところまで努力する。
  • 明るい子,世話好きな子を2〜3人選び行動をともにさせる。 
  • リラックスした状態で登校できるようになれさせる。

 

3.



指示によって簡単な行動表現ができる。

 1.仕事を一つ受け持たせ毎日実行させる。

 

 2.仲よしグループの人数をふやす。

 

  • 話さなくてもできるような仕事,たとえば, 配る,集めるのような仕事や花に水をやる, 黒板ふきをきれいにするなどの仕事を分担させる。
  •  グループの人数をふやし,学級という大 きな集団への適応を可能にし,少しずつ対話の機会をもたせる。 
4.



簡単な言語表現(あいさつ)ができるようにする。  1.話しかけ(声かけ)を多くする。 
  • 「はい」「いいえ」 
  • あいさつ

  2.グループの子どもたちからの働きかけをもたせる。 

  • ロをきいたこと自体はほめない。特に「 よく言えたね」とは絶対に言わない。

 

  •  集団の中でも「おはよう」「さようなら」 が言えるチャンスを作る。

 

人の前で簡単な言語表現ができる。

3.係活動や日直の司会をさせる。 

 

  • 必ず答えられる内容のものを準備し, 励ましながら成功感をもたせる。

4.おわりに

 昨年4月〜12月までの援助指導であったが,H子の表情にみちがえるような変容がみられた。学習時は,みんなと一緒に取り組めるようになったし,休み時間には友人と楽しく遊ぶまでにいたっている。すっかり不安や緊張感から解放されて,学級の中で自由に言語表現ができるようにもなったのである。

 H子の指導にあたっては,遊戯療法や親とのカウンセリング等も実施したが,それ以上に,学校生活への適応を考えると,大事なことは,子供に接する教師の態度が重要な役目を果たしていると思われる。それは,教師のあり方しだいで,心を開くことも,閉ざすこともあり,担任教師が教育活動の中で,子供へどんな働きかけをするかによって,その治寮的効果が期待できるからである。


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