福島県教育センター所報ふくしま No.48(S55/1980.10) -002/034page
中学校教材
中学校数学における確率の実験について
教科教育部 津 川 紀 雄
1.はじめに
現行の学習指導要領(教学)における確率の取扱 いは,第2学年の内容Dの(1)に
多数の観察や多数回の試行によって得られた結果について,頻度の傾向を表すのに,確率が 用いられることを理解させる。
- ア 確率の意味
- イ 順列と組合せの考え方
- ウ 簡単な場合について,確率を求めること
- エ 期待値の意味
とある。
新学習指導要領(社会)では,小学校6年の内容 (3)のウに「我が国が世界の国々と貿易の上で深 いつながりをもっていることを具体的事例を通して 理解し,地球儀を用いて,その主な国々の位置を確 認するとともに・・・・」と示して,従来より地球儀 の活用を重視している。
一方,新学習指導要領(数学)における確率の取扱 いは,第3学年の内容Dの(1)に
多数の観察や多数回の試行によって得られる頻度に着目し,確率について理解させる。
- ア 確率の意味
- イ 簡単な場合について確率を求めること
と示され,現行と比べて確率は
- 第2学年から第3学年に移され
- 順列,組合せの考え方および期待値の意味
が削除されたことになる。
また,文部省の新「中学校指導書数学編」で, 「中学校では,偶然現象の記述という面から確率と いう概念を登場させ,それに慣れさせる程度の演習 を行う。確率論的演算は高等学校以上での教材と考 え,例えば,順列や組合せの考えを利用して確率を 求めたり,期待値を計算したりすることは,中学校 では扱わず『過去の起こり方(つまり相対度数)を 調べれば,それを将来の起こりやすさとみなして不 都合はない』という経験則を認識させることに重点 をおくべきであろう。このため,中学校では,実験 や観測が重視されてしかるべきである。………」 と述べられ,現行と比べて実験を重視した指導を強 調している。
次に,数学的確率と統計的確率の取扱いを昭和56 年度用教科書で調べてみると,
- 統計的確率から導入し数学的確率へと展開しているもの・・・・・・・5社
- 数学的確率から導入し,統計的確率へと展開しているもの・・・・・・1社
となっており,統計的確率から導入しているものが大部分であった。
教科書を見ると,実際にサイコロを投げて1の目 が出た回数を調べ相対度数を計算した例として次の 表1がのせてある。
表1 サイコロの1の目が出た回数と相対度数
投げたか回数 50 100 200 400 600 800 1000 1の目が出た回数 10 18 34 65 99 134 167 相対度数 0.200 0.180 0.170 0.163 0.165 0.168 0.167 ここで,教師としては,生徒に実験させる前に実 際に実験を試みる必要があると考え,次のような実 験を試みた。
- (1)2枚の硬貨投げ(100円と10円)の実験
- (2)ゆがんだサイコロの実験
次に,大数の法則についてふれ,実際に試みた上記実験とその結果について述べる。
2.大数の強法則と弱法則
教科書を見ると,統計的確率を定義するための実 験として市販のサイコロでの実験が書いてあるが, この実験で注意しなければならないことに次の2つ がある。
- (1) 同様に確からしい事象の確かめとしての 実験の意味であること。
- (2) 実験結果のグラフ化は,大数の強法則を 理論的背景としたものであること。
この大数の強法則を理論的背景とした実験結果の グラフ化とは,試行の回数を横軸にとり,1の目が 出る相対度数を縦軸にとって折れ線をつくり,回数 が増すにつれて折れ線の端が一定の相対度数に近づ