福島県教育センター所報ふくしま No.48(S55/1980.10) -007/034page
- ウ.唄,三味線ともにメロディーが非常に美しく変化に富んでいる。
- エ.歌詞も作曲も上品で,教育的である。
- オ.楽器が単なる伴奏の域にとどまらず,唄と対等の器楽的な美しさを持っている。
-2.指導の要点
- ア.座敷長唄であり,劇場長唄とは異なったものであることを知らせる。
- イ.歌詞の大意を理解させると共に,部分ごとに調子が変わることを示し,表現のちがいを感じとらせる。
- ウ.いろいろな合方(あいかた)を知り,三味線の奏法やその効果などを感じとらせる。
- エ.楽器の部分と歌の部分とのかかわりのおもしろさを感じとらせる。
- オ.三味線の組合せによって生ずる効果を感じとらせる。
- カ.三味線と唄との「ずれ」に気づかせる。
-3.作曲者について
文政12年(1829年)江戸で長唄,三味線の名 人といわれた四代目杵屋六三郎(1739〜1855) の作曲で,当時彼と名を競った十代目杵屋六右 衛門の「秋の色種」(1845)と共に座敷長唄の名 曲とされる。尚,作詞者は不詳である。
‐4.曲の構成について
- 第1部(本調子) 前奏(前弾)〜歌〔日本橋,御殿山(品川),高輪〕〜佃の合方
- 第2部(二上り) 歌〔駿河台,浅草,隅田川〕〜砧の合方
- 第3部(三下り) 歌〔吉原〕〜楽の合方 〜後歌〔上野〕
江戸を中心とした周囲の風景を歌い込んだものだが,まとまった筋があるわけでなく,縁語や掛詞で巧みに名所から名所へとめぐってゆき,季節も移り変わり,かつ時刻までも,日の出から翌朝まで少しずつ進むよう作られている。
-5.歌詞及び解説
- 第1部(本調子)
〜前弾き〜(河東節風のゆるやかな歌で)
♪実に豊かなる日の本の,橋のたもとの初霜,
・・・・・・青簾の小舟,謡ふ小唄の声高輪に,―佃の合方―
佃の合方は本来,隅田川をあらわすもので あったが,後には一般に川や舟を表す象徴的 な手法(合方)となった。この曲では,「青 簾の小舟」とあり,舟をあらわしている。弾 き方は三味線の高い方の糸2本を同時に弾く ものと,三の糸をはじくか,すくうかして出 す柔らかい音とを組み合わせた音型でできて いる。
佃の合方
- 第2部(二上り 唄の聞かせ所)
♪遥か彼方のほととぎす,初音かけたか羽衣の
・・・・・・拍子通はす紙砧―砧の合方―
砧の合方は,田舎とか秋の寂しさを暗示する もので,特に地唄や琴曲に多く見られ, という「すくい爪」を用いた音型が特徴であ る。
砧の合方
- 第3部(三下り)
♪忍ぶ文字摺乱るる雁の玉章に
・・・・・・潟なすもとを籠りせば―楽の合方―
上野の弁財天・寛永寺の奏楽が聞こえてく るという意味で楽の合方を用いているわけだ が,楽は「雅楽」を意味するが,音楽それ自 体は少しも雅楽的でなく,むしろ下座音楽の 「楽」や「管弦」「里神楽」の気分にとどま っている。
楽の合方