福島県教育センター所報ふくしま No.48(S55/1980.10) -013/034page

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〔問 28〕 生徒の学習意欲をひき出すには,ど うしたらよいでしょうか。

〔答 え〕  学業不振や素行不良から落ちこぼれ ていった生徒たちは,教師が考える以上に,ホーム ・ルームでは,強い疎外感をもち,劣等感,抑圧感, 自己喪失感をいだいています。非行のグループをつ くりやすいのも,そのグループの中で,何とかして 疎外感から解放され,自己の存在感を一時的にもと りもどしたいとする「あがき」とみることもできま す。

 したがって,模擬テストや期末テストの点数をふ りかざし,「そんな勉強では合格しないぞ」「こん な赤点では原級留置きだ」と,危機感をあおり、競 争心にうったえるだけでは,生徒の学習意欲はおこ ってこないでしょう。

 「意欲」とは,おそらく,心身の健康を基盤にした生命力から発現するものでしょう。「伸びよう」とするのが生徒の本性であり,「伸びつつある」という自信が,「生きがい」となって「意欲」がわき上がってくると思われます。

 したがって,生徒の本性を無視した否定的な教師 の態度(身構えattitude)は,生徒の意欲に決して プラスには働きません。「意欲的な生徒」への生徒 の態度変容を,生徒に求めるならば,数師の側にも 態度変容が求められるべきです。学習といわず,学 校における生徒の全生活が,生徒の生命力あふれる 本来の姿にたちかえるとともに,教師も権威による 指示命令ではなく,生徒の心情的レベルに下りて, 彼等の認知内容を,あるがままに理解することから 始めなければならないでしょう。学習カウンセリン グの技術を学ぶ前提として,教師の受容的態度変容 が求められているというべきです。

〔問 29〕 学業指導の方法にはどんなものがあ るでしょうか。

〔答 え〕  まず,RTを中心に考えますと,高 等学校にはあまりつかわれない用語ですが,「学級経 営」という立場からのホーム・ルームのふんいきづ くりが大切です。教師と生徒,生徒間の人間関係が スムーズにいっていないと,学習への意欲もわいて きません。

 次に,客観的な諸検査によって,学習環境,学習意欲,学習習慣,学習不適応の原因,数師と生徒との人間関係,親子関係などに内在する問題点をおさえ,個人カードを作って,指導の資料を整備することが必要です。

 諸テストには,知能テスト,学力テストのほかにYGテストなどの性格診断テスト,問題行動診断テスト,生徒間の人間関係を調べるゲス・フー・テスト,親子関係診断テストなどが広く市販されています。また,たとえば,学習適応性検査(AAI)は,学習態度,学習技術,学習環境,精神・身体の健康の4つの領域について,質問紙によって検査し,学力向上要因珍断プロフィールが出せるしくみになっています。さらに,テストバッテリーという方法もあります。たとえば,知能テストと学力テストとの相関で成就度を出し,学業のアンバランスの原因を,さらに学習適応性検査(AAI)で珍断するといった方法です。そのほか,各教師と生徒との人間関係調査,家庭環境調査,一般的な「悩みの調査」,進路に関する適性テスト,進路希望調査など必要でしょう。また,日記,手紙などの形で文章で生徒個人の認知内容を知っておくこともRTとしては必要でしょう。ホーム・ルームの時間を活用したフリー・トーキングの話合いも加えたいものです。

 以上の資料で生徒ひとりひとりの問題の所在を知ったら,いよいよその解決にとりくむことになります。個人面接や集団面接によるカウンセリングをやらねばなりませんが,カウンセリングには,非指示的カウンセリングの方法が有効だとされています。受容的態度で生徒のあるがままの心情をまず理解してやることが大切です。そして,場合によっては,生徒の学習不適応の原因が親の態度にあるときは,家庭訪問をして親と話し合うことも必要です。また、従来,学業指導がRTに一任され,各教科の教師は学習不適応や,成績不良の事実をRTに一方的に伝えるに終わっていたきらいがありますが,RTと各教科の教師との話合いを十分行って,学習不適応の原因を生徒ひとりひとりにつき教科の教師も知って,それをふまえて授業の改善につとめ,あるいは生徒との接し方,かかわり方に工夫と改善を加えてゆくことも大切です。また中学校・高等学校の連携,学校以外の指導・相談機関との連携も大切です。


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