福島県教育センター所報ふくしま No.49(S55/1980.12) -012/034page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

表2 相談事例内容一覧表
項目
事例
動機 使用薬物 吸入方法 入手経路 吸入場所 時間 回教 人数 症状 関連非行 性格 家庭適応 学校適応
A(高1・男) 中3の夏休み,同級生にさそわれて シンナー

ボンド
ジュースかん

ビニル袋
友達

金物店
自室

アパート
(友達)
不特定 初回
中3夏休

現在毎日
1人又は3人
高校生
有職少年
めいてい 無免許
無断外泊
喫煙
・Y−G検査…AB型
・運動が嫌い
・罪悪感の意識がうすく付和雷同的で常視を逸しやすい。
・母子家庭
・無関心
・放任
・矛盾
・学業不振
・学校は友達がいるので楽しい。
B(高3女) 春休み
アルバイトで知り合った友人にさそわれて
シンナー ビニル袋 マーケット アパート
(友達)
クルマ
神社
トイレ
(学校)
PM
7:00

AM
2:00
初回
2年春休〜4回
3〜4人
高校生
有職少年
はき気 無断外泊 ・Y−G検査…D´型
意志が弱く軽率で思慮に欠ける。
・考え方にゆがみを生じると常視を逸しやすい。
・母親の検査
拒否・厳格
干渉・不安・溺愛
矛盾・不一致
・学校は楽しい

事例Aは,無免許・喫煙・無断外泊等の関連非行が見られ,反社会的要素を多く含む性格で,しかも吸引の回数も多く,無関心・放任の家庭の養育状況などから,嗜癖型に移行する危険性を持つ非行促進型と診断し,自我意識の甘さと性格の弱さとを自覚させるために長期のカウンセリング,またシンナー等に対する嫌悪感をうえつけ,断ち切らせるために催眠療法等の治療も行ってきた。さらに,精神科医の診断をあおぎ,精神的自立を図るための隔離療法的なものも考える等、現在指導中である。

事例Bは,吸引回数・関連非行が少なく,はき気の身体症状及び面接態度等から単純模倣型と診断し,交友関係の調整,有害性の理解,自我認識の甘さと性格上の弱さの自覚、また3年生でもあるので,将来の進路について家の人とよく話し合うことや,両親の養育態度の改善等を中心に指導にあたった。

こういった相談事例から,シンナー等乱用に陥っていく子供たちの背景には,家庭の養育上の問題,学校不適応の問題及び学歴偏重・知育偏重の社会的風潮の問題等、いくつかの問題点が存在し,その点の改善が急務であると痛感される。

4.シンナー等乱用生徒への対策

シンナー等乱用は,習癖になりやすい。また治療のための特効薬はないと言われている。そのためには,早期発見・早期治療が大切である。

(1) 早期発見の手掛り

家庭や学校で早期発見をするにあたり,次のことが手掛かりになるであろう。


[1] 衣服や吐く息に揮発性のにおいがある。
[2] ビニル袋・ジュースかん及び液体の入った小ビン等隠し持っている。
[3] ふらふらしている。ろれつが回らない。
[4] 顔面がそう白である。
[5] 感情の抑制がなくなり,粗暴な言行が目立つ。
[6] ぼんやりしている(瞬間的に記憶を失う)。

(2) シンナー等乱用の指導の原則

家庭や学校で乱用生徒の予防及び早期治療にあたり、指導原則として,次の内容があげられる。


[1] 心身の有害を説く。(映画・テレビ・パンフレット・新聞等の利用)
[2] 乱用による犯罪・事故・死亡等の事例から認識を深めていく。
[3] 違法性を説く。
[4] 違反者に対する罰則や処分の説明。
○保護観察処分 ○教護院 ○少年院
[5] 乱用生徒には,カウンセリングを通し自己洞察を図り,保護者には,子供の気持ちを感じ取らせ,親子間の改善をうながす。
○日常生活の改善(余暇の利用等)
○交友関係の調整 ○養育上の改善
○自分の性格への対処法 ○反省文

5.おわりに

中高校生の年代は,子供から大人へ成長する過渡期にあり,親からの独立,自己の発見,そして同一性の確立等,青年期の課題が山積みされている。そういう中で,適切に防衛機能を働かすことができず,シンナー等乱用に陥っている生徒が急増していることは,乱用に伴う非行等,二次時な問題が数多く引き起こされているだけに,真剣に受け止めねばならない。特に学校教育に携わる者として,シンナー等乱用生徒の多くが,学業不振者で,学校不適応を起こし,脱落して行く姿を見るに忍びない。学校は,学ぶ喜びが味わえ,主体的に生きていく強さが学べる人間教育の場でなければならない。そのためにも今まで以上に,家庭と学校との連携が必要であることを,今ここに強く呼びかけたい。


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育センターに帰属します。