福島県教育センター所報ふくしま No.50(S56/1981.2) -018/042page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

らえられるような発問を工夫していきたい。

3.基本的発問の具体例

ある日,しのちゃんが,小さなブラシのついた新しい消しゴムを持ってきました。
「なかなかいい物,持ってきたな。よしよしつかってやるぞ。」太郎はそう言って,さっそく何やらごしごしと消し始めました。ところが,手がすべって,しのちゃんの大事な消しゴムが,ひみつのあなから落ちてしまいました。しのちゃんは,なきだしそうでした。
「弱虫,なくな。おれが今,取ってきてやる。」
と,太郎は,すぐ教室をとび出していきました。
どこからもぐりこんだのか,太郎は,教室のゆか下に入っていきました。でも,ゆかの下はくらくて,くものすやほこりだらけで,なかなか見つかりそうにありません。そのうちに,授業の、始まるかねが鳴ってしまいました。

読みのめあてA
しのちゃんが消しゴムを紛失したときの困った気持ちを読みとる。

発問1―大事な消しゴムが,ひみつのあなから落ちたとき,しのちゃんは,どんな気持ちだったでしよう。

このような発問をすれば,児童はすぐ"なきだしそうでした"という表現をとらえて,「悲しい気持ちだった。」「とても困った。」などと答えるだろう。しかし,こう答える児童の中には,概念的な読みとりにすぎず,しのちゃんの心情を真に読みとっていないものもいるにちがいない。そこで,まず,しのちゃんにとって,この消しゴムがどういうものであったかをはっきりとらえさせたい。

発問2―"しのちゃんの大事な消しゴム"とありますが,この消しゴムは,しのちゃんにとってどんな消しゴムだったのでしょう。

この"小さなブラシのついた新しい消しゴム"は,当時のしのちゃんたちの分校ではめずらしい物であり,しのちゃんにとっては,使いたてであり,もったいなくてほとんど使っていない,いわば宝物のようなものであったろう。このような発問に対しては,児童は類似体験を想起するなど活発に答えてくれるだろう。そんな消しゴムを太郎は強引に取り上げたばかりか,ひみつのあなに落としてしまうのである。このときのしのちゃんの心を,ただ単に「悲しい気持ち」でかたづけてしまったのでは,しのちゃんの心に共感できない。そこで,さらに次のような発問を準備したい。

発問3―しのちゃんは,なきだしそうになりながら,心の中でどんなことを言っているでしょう。

これは,単に口答で発表させるのではなく,ノートにまとめるなり,ふき出し法によるなりして書く活動と結びつけ,太郎に文句を言いたくても言えないでいるしのの困惑・悲しみをとらえさせようとするものである。

読みのめあてB
なきだしそうなしのちゃんを見て,太郎はどんな気持ちになったのかを考える。

この太郎の気持ちにせまるためには,太郎の会話や行動に着目させる心要がある。そこで,"すぐ教室をとび出していきました。"の"すぐ"ということばに目を向けさせたい。

発問4―なきだしそうなしのちゃんを見て,太郎は,どうして"すぐ"教室をとび出したのでしよう。

太郎のことば「弱虫,なくな。……」から,児童の多くは,太郎のわがままで乱暴な性格を指摘するだろう。しかし,ことばでは少しもわびていないが,しのが大事にしていた消しゴムを穴に落としてしまった責任を,太郎なりに感じての即行動であることを,ぜひ読みとらせたい。"すぐ"ということばからそこまでの読みとりがむずかしい場合は,くらくて,くものすやほこりだらけのゆか下で,なかなか見つからずにいっしょうけんめいにさがしている太郎の姿をイメージ化させる必要がある。

発問5―太郎は,くらいゆかの下で,消しゴムをさがしながら,しのちゃんに心の中でなんと話しかけているでしょう。

発問5で,くらいゆか下の様子や,消しゴムをさがしている太郎の様子を思い浮かばせる発問とつないで,太郎の内言をしのちゃんに呼びかける形で表


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育センターに帰属します。