福島県教育センター所報ふくしま No.50(S56/1981.2) -019/042page
白させていけば,しのちゃんに対して「すまない」と思っているだろう太郎の心が浮きぼりにされるにちがいない。ここで初めて,いたずらで乱暴ものであるはずの太郎が,本当はやさしい心を持った子かもしれないぞと気づいてくるものと思われる。
発問6―太郎はしのちゃんに,「弱虫,なくな。」といっているのだから,本当は,泣き出されるのがいやで,しかたなくさがしにいったのではないだろうか。
なお,太郎の心情のとらえ方が表面的であったり,一部の児童の意見にすぎなかったりする場合,発問6で,児童の読みとりにゆさぶりをかけてみたい。そうすることによって,ふつうの子なら「ごめんね。」とあやまるところを,わんぱくものの太郎にとってははずかしくて言えず,「……よしよしつかってやるぞ。」と同様,てれかくしの強がりにすぎないのではないかと気づいてくるであろう。
ところが,そのとき,ゆかの下から,しのちゃんの後を受けて,「リリ,リリ,リリ――。」
と,声がしたのです。先生も子どもたちも,びっくりして耳をすましました。やがて,クスクスとわらいだしました。
だれかが,
「太郎こおろぎだっ。」
と言いました。今度は,先生もふき出してしまいました。◇ 読みのめあてC
太郎の,しのちゃんをかばおうとするやさしい心を読みとる。太郎がこおろぎの鳴きまねをしたのは,しのちゃんをかばうためだということは,大部分の児童が気づくだろう。ここで,児童一人ひとりに深く味わわせたいのは,しのちゃんの窮状を救おうとする太郎の真剣さ,太郎の人間性あふれる善意の心である。
そのためには,まず,暗いゆか下に身をひそめ,授業が始まった教室のようすに,じっと耳をかたむける太郎の姿をイメージ化させたい。
発問7―「こおろぎが鳴いているんです。」というしのちゃんの声を聞いたとき,太郎はどんなことを考えたでしょう。
この発問は,その前のしのちゃんが先生に注意されている場面,その後のみんなにどっと笑われて鳴き声が止まった場面での太郎の心の中をとらえさせる発問とつなげば,なお効果的なものとなろう。しのの窮状は自分の不注意から起こったのに,先生にうそまでついて,みんなに笑われながらも,必死になって自分をかばおうとするしの。そんなしののやさしい心を感じている太郎の心情をとらえさせたい。
発問8―太郎は,しのちゃんの後を受けてこおろぎの鳴きまねをしていますが,この時の太郎はどんな気持ちでしょう。
ここでは,やさしいしのちゃんの窮状を救ってやりたい一心で,ゆか下にいる自分が見つけられてしまうことなど気にもかけずに,しのちゃんの後をうけてこおろぎの鳴きまねをしている太郎の真剣さを考えさせたい。そして,次の読みのめあてへとつないでいきたい。◇ 読みのめあてD
しのちゃんをかばおうとする,真剣な太郎の行為に気づいたみんなや先生の心を読みとる。読みのめあてCによって,しのをかばう真剣な太郎の姿がイメージ化されれば,そんな太郎に気づいたみんなや先生が,くわしい事情はわからなくともほほえましく思い,太郎の善意に惜しみない拍手を送っているであろうことは,読みとるにちがいない。
したがって,ここでの発問は,読みのめあてをそのまま投げかけてもいいのではないだろうか。
発問9―しのちゃんをかばおうとして,真剣になってこおろぎの鳴きまねをしている太郎に気づいたみんなや,先生や,しのちゃんは,太郎をどう思ったでしょう。
ここでは,特にしのちゃんの心を考えさせたい。太郎の暖かい人間味を最も深く感じたのは,しの自身であったろうと思われるからである。4.おわりに
紙面の都合で,部分的な記述になってしまったが,発問のよしあしは,教材解釈の深浅に深くかかわることを改めて考えさせられたことをつけ加えておきたい。