福島県教育センター所報ふくしま No.52(S56/1981.8) -011/034page
教育相談 問題行動をもつ生徒の性格特性と養育環境
教育相談部 佐藤晃暢
1 はじめに
生徒が問題行動をおこさない理由のひとつに,社会規範に同調しようとの要求を内面化していることが挙げられる。そこで,問題行動を理解するためには,同調への内的・外的要求をいかに 中和 (逸脱行動を合理化し正当づける)しているかを知り,さらに「中和の技術」を学ぶことをよしとする性格特性の歪(ひず)みと,その歪みを生じさせたその子をとりまく養育環境に視点をあてて問題をみていくことも必要であろう。55年度に当センターに来所したケースをもとに若干の考察を行うことにする。
(註)マツッア(Matza.D),サイクス(Sykes.G.M)による「中和の技術」とは,
[1]責任の否定,[2]加害の否定,[3]被害者の否定,[4]非難者への批難,[5]より高度の忠誠心の訴えといった5の考えにもとづく態度である。
2 学校種別と非行内容
主訴を「非行」として来所した生徒は13名で,相談件数からみて決して多い処理件数ではない。しかし年々増加の傾向をみせている。
表1 学校種別,学年別,性別からみた相談件数と非行内容
中2 中3 高1 高2 高3 計
男子 0 0 6 0 0 6 13 女子 1 2 0 2 2 7 怠 学 男 ・・ 2 5 女 ・ ・ ・ 3 万 引 男 0 3 女 ・ ・・ 3 外 泊 男 0 4 女 ・・ ・ ・ 4 不良交友・ 不純異性交遊
男 ・ 1 6 女 ・ ・ ・・ ・ 5 シンナー吸引 男 ・・ 2 4 女 ・・ 2 喫煙・飲酒 男 ・・・ 3 3 女 0 暴力・金銭強要 男 ・・・ 3 3 女 0 暴走無免許運転」 男 ・・ 2 2 女 0 この表からみて,男子の場合は高校1年に集中しており,学校もしくは,科不適応が原因となっている。高校入学後,学校環境,交友関係,履習教科等多くの変化への対応ができず,その不安や不満をシンナー吸引,喫煙,飲酒,暴力等の不良行為を行うことによって解消を図っているものと考えられる。
女子の非行内容を大別すると,○怠学―万引―不良交友,○怠学―外泊―不良交友が中学生に,より非行速度を進めた,○怠学―万引―外泊―不純異性交遊,○外泊―シンナー吸引―不純異性交遊が高校生に多いことがわかる。また,化粧品,アクセサリー,衣類等を主とした万引が多くみられ,その動機をきき出してみると,不正常な連帯意識や,親への反抗としての場合が多い。
3 性格検査・非行予測検査からみた性格特性
当該生徒の性格をY−G性格検査によって類別にまとめてみると
類 型 男 女 計 全体比 A:平凡型 0 1 1 8% B:不安定・積極型 1 3 4 31% C:安定・消極型 1 0 1 8% D:安定・適応・積極型 4 3 7 53% D類型,B類型に属したものが全体比84%を占めている。一般的にB類型は,情緒不安定,社会的不適応 積極型といわれ,環境または資質面での不良が加味されると非行に陥る可能性が,他の類型よりも多いといわれている。
最も多い人数を占めたD類型は,情緒安定,社会的適応,積極型であり学校でも問題生徒であるよりも,むしろ指導的立場で活躍がのぞめるタイプであるとされている。このタイプがなぜ非行をおこすのかを解釈するためには,因子間の分析が必要である。そこでB類型とD類型に属した生徒の問題となる性格特性をピックアップし,プロフィール化したものが図1である。この図でわかるように両類型にはかなりの相違がみられる。D類型の生徒は,対人接触を好み,集団の中に自己顕示の場を求め,派手な行動を軽率にそして衝動的に行おうとする自己顕示型である。これに対しB類型の生徒はつねに新しい刺激に興味を示し,もののみかたや行動が自己中心