福島県教育センター所報ふくしま No.52(S56/1981.8) -020/034page
「心の健康を求めて―耕心のためのイラスト化」
いわき市立内郷第一中学校教諭 近藤春美
1 はじめに
昨今の校内暴力等に見られる子どもたちの心の不健康に,我々は手をこまねいてはいられない。考えられるあらゆる手を,たとえ一見とるにたらぬ方法でも具体的行動に移し,善導しなければならない。
そのための一つに,耕心の徹底があげられる。耕心のための中心的場は,なんといっても道徳の授業である。その中で種々の方法が考えられるのだが,イラスト化を利用することの実践を考察して,心の健康への一つのアプローチになれば幸甚に思う。
2 イラスト化するとは
ここでいうイラスト化とは,次の如くである。道徳の授業の中での,価値について,葛藤について,実践への意欲について等を,ノート,TP,図画紙,トリノコ,黒板などに,子どもたち自身がイメージを脹らませて,できればカラフルにイラストにしてみるということである。例を次にあげてみる。
- 主題名 身につけたいこと(3学年)
- 資料名 「あいさつ」(東書版新しい生活3)
- 主な指導内容 2望ましい生活習慣(礼儀)
- ねらい 礼儀の意義を理解し,時とところに応じた適切な振る舞いができるように努めることができる。
- 指導過程
[1]事前指導
[2]本時の展開(前後略)
- あいさつは,わたしたちの生活の中でどのような意義を持っているのか,グループでTPにイラストに表してみよう。
- TPを皆に提示し,どうしてそういうイラストになったのか発表してみよう。
[3]事後指導
そこで次のようなイラストが子どもたちから出た。これらを,本稿では「イラスト化」と称している。
左の如く,子どもたちにイラストをかかせ,セリフを入れらせてみることも良いのではなかろうか。この実践は,はじめてから7年位になるが,4コマの漫画が出たりして,けっこう奇抜なアイデアも続出し,思わず唸(うな)ってしまうことも再三再四ある。
3 イラスト化させる理由
人間は大脳の中でえがいたイメージとおりの行動をひき起こすそうである。より良き生活をする人は,常に積極的,肯定的イメージをえがくことができ,そのイメージの実現をめざして努力することができる人といわれる。そのイメージをイラスト化できないか?否,イラスト化させるべきだと思うのである。
又,現在は漫画,劇画,イラストの時代であると称される。子どもたちは,漫画人間,TV文化人間として,活字文化人間と対比していわれる。性急な表現になるが,文章よりもイラスト化のほうが親しみやすい今の子どもたちであるということである。
このイラスト化を利用する道徳の時間は,話し合いによって,ものの見方,考え方を確かなものにしたり,深めたりしながら,人間としてのより良い生き方を見つめて,実践への意欲を培う時間といわれる。その話し合いを有効にさせるための一手だてとして、イラスト化が考えられる。
その話し合いの中で価値の内面化をするわけであるが,価値について考えてみる,ねりあげてみる。つまり耕心のための過程としてイラスト化することに,大なる意義を感じるのである。あるいは,実践への意欲化には,よしやるぞと決意させることが肝要である。この決意を問題場面に応じてイラスト化させることも有効であると思う。
4 イラスト化することによる利点と思われること
次に自画自賛的になるが,利点を記す。
(1)授業をいきいきとさせ,指導するねらいがより良く達成され,心の鍛練に寄与しうる。
(2)子ども自らが手がきして,提示することにより,いっしょに考え合うことが深まりやすい。
(3)授業が教師中心のみにならず,子どもたちが能動的に参加している授業になる。
(4)子どもたちがイラスト化をとおして話し合う中で,問題意識をもち,価値に迫っていく姿勢に迫力がでる。
(5)イラスト化することにより,実践化しようとしたことを,より良く潜在意識にまで,しみとおらせることができるのではないだろうか。
(6)道徳の授業というと,かた苦しい理屈をこねまわし,説教調に終始しやすいことをすこしでも