福島県教育センター所報ふくしま No.53(S56/1981.10) -002/034page
高等学校教材 「鈍角への拡張」の指導について
−数学1における「三角比」の取扱い−教科教育部 上 川 洋 行
1.はじめに
「三角比・三角関数」は,昭和22年に出された学習指導要領(試案)以来,数回にわたるその改訂のいずれの場合にも,指導内容として取り上げられてきた。今回の学習指導要領の改訂でも例外ではない。しかし,「教学1」での取扱いについてみると,現行のそれとの間に,かなりの違いがある。そこで,新「教学1」における「三角比」の取扱いについて,考察を加えてみたい。
昭和57年度から学年進行で実施される高等学校学習指導要領によれば,現行の「教学1」の「三角関数」の内容のなかで,「関数として」の取扱いは,2学年以降に履修する選釈科目の内容となり,1年次に全員が履修する「教学I」では,「三角比としての図形的な内容だけ」が取り扱われるようになった。「数学1」の「三角比」で取り上げられる事項は,「正弦 余弦および正接」と「正弦定理,余弦定理」である。正弦定理,余弦定理では,当然,鈍角三角形も扱うことになり,三角比をどのように鈍角へ拡張するかが,問題となってくるように思われる。そこで,鈍角の三角比の定義のしかたに焦点をあてて,述べてみたい。
2.学習指導要領にみる「三角比」の指導の変遷
まず,手がかりを得るために,ここ20年来の学習指導要領から,「三角比」の取扱い方についての変遷をふり返ってみよう。
昭和33年改訂の中学校学校指導要領では,「鋭角の三角比」を3年の内容としている。これを受けて昭和35年の高等学校学習指導要領においては,「一般角の三角関数」を「数学1」の内容とし,「正弦定理,余弦定理」を「数学2B」の内容にしている。
昭和45年の学習指導要領の改訂では,20有余年,中学校で指導されてきた「三角比」は,指導内容の精選・集約という趣旨から削除されて,「三角比」は,「数学1」の「三角関数」のなかで指導されることになった。これが現行のもので,内容は,○正弦,余弦および正接の意味 ○三角形の辺と角との間の基本的な関係 ○三角関数とその周期性である。
上に述べたいずれの場合でも,「三角比」の指導においては,
鋭角の三角比→一般角の三角関数→正弦定理,余弦定理
の順序で進めれば,ことさら,鈍角を取り上げ,その三角比をどう定義しようかという問題は,起こってこない。
先に述べたように,今回改訂の高等学校学習指導要領によれば,指導の順序は
鋭角の三角比→正弦定理,余弦定理→一般角の三角関数(数学2,基礎解析の内容)
となり,「数学1」で,一般の三角形について「正弦定理,余弦定理」を学習するには,どうしても,事前に鈍角に対して「三角比」を定義しておかなければなるまい。
3.「三角比」の高校数学での位置づけ
初等幾何の計量的な面については,中学校において,三平方の定理や相似の応用などを通して学んでいる。これを受けて教学1の「三角比」では,図形の計量に関する理解を一層明確なものにし,応用場面を広げていくことをねらいにしている。内容としては「直角三角形の辺の比と角との間の関係として,正弦 余弦および正接を導入し,それらを鈍角の場合にまで拡張」し,さらに「三角形の辺と角との間の基本的な関係として,正弦定理・余弦定理を導き,それらを図形の性質の考察や自然の観測,測量などに活用することを取り扱う」(高等学校学習指導要領解説昭和54年)ことになる。
「数学1」は,すべての高校生が履修する科目であるが,その後の選択科目の履修は,進路・適性に