福島県教育センター所報ふくしま No.55(S57/1982.2) -003/034page
ことが求められている。
例えば、倫理学の成果としてのソクラテスの考え方を教材として取り上げるとする。ソクラテスは、「無知の知」やこれを自覚させる方法として問答法を説いた。これは、他人のあげ足をとったり、相手の無知を暴露したりするのではなく、謙虚に自己を兄つめ、無知の自覚を出発点として真理を思索して生きることの大切さを説いたものである。また、アナテイを、惰眠をむさぼる馬にたとえ、自らはそれにうるさくつきまとう虻(あぶ)であり、虻としての使命が白らの使命であり、生命をかけてこの使命を果たそうとしたのである。
これらのことを一つの手がかりに、「現代社会」では生徒に自己を知ることの大切さ、真理を求めて生きることの意義、よく生きるとはどういうことかなどについて考えさせることができるということである。ここで、もし生徒に自己を知ることの大切さやよく生きるとはどういうことかなどを考えさせるのにソクラテスを教材とするよりもより適切な教材が見い出せれば、何もソクラテスにこだわる必要はない。生徒の作文でも他人の伝記でも、より適切な教材を用いればよいわけである。
(3)指導内容は、中学校社会科や高等学校社会科の選択科目との関連に配慮して構成する。
指導内容を構成する場合、特に中学校社会科ではどのような内容を、どのように指導されてきたかを十分に確認することが必要である。それによって、中学校までの学習との無意味な重複を避け、生徒にとって新鮮で意味の大きい学習にするとともに、時間を有効に用いることができるからである。
例えば、財政の取り扱いについて考えてみる。中学校社会科「公民的分野」では、「国民生活のために必要な公共的な仕事をする国や地方公共団体の経済的な役割を財政収支という具体的なものからとらえさせ、それが国民生活に重要な意味をもつ」ことを理解させるのである。したがって、財政の制度や社会政策的役割、国民経済の調整的役割などはまともに取り上げるのではなく、経済の仕組みに関連させる程度の平易な学習にすることが求められている。
これを踏まえ、「現代社会」では「現代の経済生活においては、経済活動への政府のはたらきかけが増大していることに着目し、経済と政治の結びつきという観点から現代の経済生活の特色を考えさせる」ことになっている。その際、政府のはたらきを財政の規模と関連づけて考えさせるように取り扱うことが求められている。
このようにみると、「現代社会」では中学校で学んだ事柄について、
○ その意味をより深く考えさせる。 ○ それに新たな視点を加えて、より総合的に 考えさせ、新たな意味を発見させる。 ○ その幾つかを関連づけて考えさせ、兄方、 考え方を学んだりすることができるようにする。 などの意味をもった、指導内容の構成が求められているといえる。
次に、選択科目「政治・経済」では財政について「経済の成長が目標としているのは、国民生活と福祉の向上であること、しかも経済の成長過程には、景気変動やインフレーションを伴うことがあり、このことが所得分配などに社会的不公正を生じさせることになるので、これに対する政策が必要であることなどを理解させるとともに、このような観点から、金融・財政の役割を理解させるようにする」ことになっている。
ここでは、国民経済の動きにかかわる金融・財