福島県教育センター所報ふくしま No.55(S57/1982.2) -011/034page
教育相談 箱 庭 療 法
= 登校拒否Y子の事例から =
教育相談部 小川 兼太郎
1. はじめに
当教育センターでは心理療法の一環として箱庭療法を実施している。登校拒否の事例をもとに、その概要を紹介したい。
2. 箱庭療法とは
箱庭療法は、1929年にM.ローエンフェルトによって創始され、後にスイスの心理療法家ドーラ・Mカルフ夫人によって現在用いられている形が確率した。カルフはスイスの心理学者C.G.ユングの考えに従って「自由で保護された空間」を提供することによって、自由に自分を表現させ、クライエント(来談者)の心に内在する自己治癒力が最も働きやすい状態を作ることが必要と考え、砂場で楽しく遊んでいる子供たちの姿から箱庭療法をあみだした。
材料は、砂箱、砂、玩具である。砂箱は内ノリで57×72×7pで内側を青く塗ったものである。これは砂を掘った時に水が出てくる感じを出すためである。砂は細かい砂で適当に湿らせておき、山や川などを作りやすいようにしておく。玩具には人、動物、植物、乗物、怪獣、柵、建物などがある。クライエントに「これで、何でもいいから作ってみて下さい。」と指示する。クライエントの表現は、あくまで治療者との人間関係を土台としてなされるものであるから、自由な流れをこわさないようにすることが大切である。回を重ねて表現活動が進展していくと、ユングのいう自己の象徴としてのマンダラが表現される。自我形成の過程は動物・植物の段階、斗争の段階、集団への適応の段階として表現される。このような過程に加えて箱庭の空間配置の状況や置かれた内容のテーマなどについても分析を行う。主なものを紹介する。色彩については赤は感情、青は思考、冷静、緑は感覚、自然、黄が直観、希望を意味する。数については多様な解釈があるが、大体1、2は、分割と統合を繰り返す成長過程の最初の段階で、特に3はものごとがはじめて形をとるダイナミックな数である。4は調和と統合の原型的な存在で、5は中心核の完成と新しい動き、6は二つの図型のよりそった姿である。7は宗教的で神秘的な数であり、8は円に最も近い円満な図形と数である。9は完成に近い幸運の数であり、10は一応完成に到達した数である。空間については次図のように考えている。
3. 登校拒否Y子の事例
(1) 概要
本事例は中学校3年生の女子である。農業を営み祖父母、父母、別居中の姉の6人家族である。特別な理由もなく、5月ごろから登校をいやがり、11月から自分の部屋にとじこもり登校しなくなった。バスケット部員で練習は熱心にした。親しい友達はなかった。昭和56年11月12日来所。週一回の面接指導を実施した結果、昭和56年12月8日から登校を開始し、以後登校を続けている。
(2) 診断及び指導方針
情緒不安定で内向的で不適応を起こしやすい性格なのに明るくハキハキとした生活態度でありたいと思う自己矛盾が深まって、自信をなくし登校拒否を起こしたものと思われる。その背景には両親の養育態度の不一致や拒否的養育態度等からくる家庭内での人間関係に問題があると考える。そこで次のような指導方針を立てた。 1.家庭内の人間関係の改善をはかる。特に両親に対する面接指導を通して養育態度を改善する。 2.自主的計画的な生活態度の育成に努める。 3.来所して継続的なカウンセリングを受ける必要がある。
(3)指導経過(箱庭作品から心の内面をさぐる)