福島県教育センター所報ふくしま No.56(S57/1982.6) -004/042page

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来る子にはうねぼれないようにさせ,効力感をますますたしかなものにするようにみちびかなくてならない。ところで,効力感を産むにはつぎのような条件があるとされる。すなわち,(1)自分の努力による達成のよろこびの体験の累積,(2)行動をはじめ,それをコントロールしたのは,ほかならぬこの自分であるという感覚一自律性の感覚,(3)他者との暖い交流,(4)自己向上の実感,(5)実存的要求をみたすもの,というのである。(5)は他の条件の根ざすところであろうが,実存的要求とは,真実の自己存在を実現しようという要求である。これをみたすみちは,1.たとえささやかでも値価のあるものを創造して自他に与えること,2.良きもの美しいものを味わい,他を正しく愛すること,3.正しい目的や使命をはたすのに苦悩に耐えてなしとげること,である。このとき自己を実現しうるのであるが,その自己を超えてさらに高く自らを実現しつづけていくことが,真実の自己存在の実現なのである。効力感は,このような自己実現の方向において要求充足の度合にしたがってたしかなものになっていくと見られる。

 さて,しかしながら,日常の指導の具体においては,(1)から(4)までの条件をみたすように配慮することによって(5)にのべた実存的要求への自覚へしだいにみちびいていくということになるであろう。

 われわれは,このような条件をみたしてやれる教師でありたい。こどもの生活の全体の指導においてである。とくに授業にわいて効力感を育てるには,どのような配慮が必要であるかは重要であるが,紙幅の都合で割愛する。

 3. 学問をもとめ,腕をみがくこと

 学問を求め腕を磨く教師ということばが,海老原治善氏の,子どもを守る教師という論説の中にあった。これは,よい教師の条件の一つでなければならない。(注4)よい教師は絶えず自らを学問的に鍛えつづける存在である。たしかな学問的裏付けのある指導技術は指導にみずみずしさをもたらし,子どもをひきつけ,生き生きとした感動を子どもに与える。さらに,教師の学問的探究のすがたが,子ども自身が主体的に探究していく態度を育て,それが生涯学習の意欲をたしかにしていくことになるであろう。

 よい師にめぐまれたと回想する人々が,わが師の学問を求めるすがたについて語っていることが多いのである。さて,腕をみがくというのはこの場合どういうことになるであろうか。もちろん学問に裏打ちされた指導技術の腕をみがくことである。子どもの具体をたしかに見届けながらである。学問的には深いのだが指導がへたで,子どもを伸ばしえないなら,よい教師とは言われない。

4. 周囲の人々をこよなく愛し,度量のひろい実践家であること

 筆者は,このことばを三好京三氏の著書(前出)の中に見つけ,これまたよい教師の条件をあらわすものと考えたのである。筆者の50年をこえる教師生活の中で,このような教師の存在が,職場を明るくし,教育活動の精気を高め,子どもたちを生き生きとさせているのを実感してきた。しかしまた,上におもねり,下には高ぷり,同僚の足をひっぱり,優れた者はけなし中傷する,理屈はいうが実践はものにならない,多少の研究におごる,他との協調に欠ける等々,克服を期さなければならない状況も往々存在することも実感してきた。この条件を取り上げた所以(ゆえん)である。ところで,なぜ実践家をとくに言うのであるか。教師は教育の実践家なのである。教育は本来その実践をぬきにしては教育でありえない。ただし,理論のたしかでない実践あるいは理論を欠いた実践は,まことにあやうい。このことをしかとおさえておくことにしよう。

5. 健康で,若い情熱を持ちつづけ,つねに徳性の洗練につとめること

 健康でなければ子どもとともに活動できない。若々しい情熱がなければ子どもたちは離れてしまう。この情熱は年齢にかかわりがない。高齢の教授の若々しい熱のこもる講義に学生はひきつけられ,若い教師達があやかりたいと望む実例のいくつかを筆者は知っているし,筆者自身ひかれている。幼小中高校の場合なお一さらであろう。

 さらに教師は,教師にとくに求められる資質は何であるか,何が教師の徳性としてとくに重要であるかに思いをいたし,それが自已の現状においてどうであるかを問いつめつつ,自らそれに実践をもって答えていかなければならない。

 子どもに対し,その知・徳・体の調和のとれた発達をねがう教師は,自らも知・徳・体三拍子そろった熱中教師として,子どもとともに育つ存在,すなわち共育者であり,しかも子どもたちの先達者として,自己を高めるに厳しくなければならない。


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