福島県教育センター所報ふくしま No.56(S57/1982.6) -013/042page
大人の判断に従って行動することを常に強いられるため,彼らの心には依頼心しか育たず,自ら何か新しいことを試みようとするような意欲をはぐくむことは,一層困難になってきている。
「自立感」や「自発性」などの発達課題が達成できなかった反動として,「やりたいことをやる」考えの青少年が増加しているとも考えられる。
(3)家庭における仕事量の減少
現代の子供たちの生活環境の変化で最も大きなものは,彼らの仕事(作業)が無くなったことである。
かつては子供も貴重な労働力であり,特に農山漁村においては,例えば「A君は力があり,大人にも負けないくらいの仕事をする」との評価を受け,それなりに認められていた。また,都市部においても,それぞれに家庭内の仕事を分担し合い,家族の一員としての役割を担ってきた。
しかし,学力偏重の風潮は,彼らを塾や勉強部屋へと追いやり,家庭電化等による省力化の波は,彼らから仕事を奪い取ってしまった。
仕事を能率的に進めるためには「段取り」が大切であり「段取り」を上手にやるためには,仕事をどう進めれば効率的か,仲間とどう協力したらよいかなどについての創意工夫が必要となる。
しかし,自ら額に汗して働くことの無くなってしまった彼らには,そのような意識は芽ばえようもなく,また工夫して成功したという成就の喜ぴも体験することが少なくなってきている。
3. 子供を生かす特別活動の指導
このような子供の実態を考えるとき,「成すことによって学ぷ」特別活動の役割はまことに大きいといわねばならない。
かつて子供たちの世界に数多く存在した「ふれあい」や「仕事」の場面をできるだけ学校生活の中に取り戻し,それらの活動を通して集団としての役割意識や自主的な行動力,実践的な判断力を養うとともに,一人一人に生きる意欲,学ぷ意欲を培っていかなければならない。そのためには特別活動の指導において,次のようなことに留意する必要があろう。
(1)身の回りの問題を自主的に責任をもって
彼らの周囲には「清掃をどう上手に行うか」「学級対抗の球技犬会の選手を誰にするか」「文化祭を学級としてどう受けとめるか」など種々の問題が横たわっている。それらの一つ一つを彼ら自身の手で解決させていくことが必要であるが,その際,実践の過程を見直すことが,より大切である。
千葉大学教授,坂本昇一先生は「(話し合いなどで)選ばせたり,決めさせたりすることは一応やられているが,実践する責任と実践した内容についての責任ということについて希薄になっている。自分たちで決めて実践するが,なかなかうまくいかないときがある。そんなとき「決めただけではうまくいかないのだなあ」ということを子供に気づかせ,それを基盤に次に決めるときには,きれいごとでない決め方,すなわち,子供を現実場面に引きずりおろしてくることの繰り返しが重要である」と述べている。
決めたことについての実践と,実践内容についての責任について,教師の一層の指導が必要となってきている。
(2)観察(見てまねる)学習場面をふんだんに
さまざまな問題の解決を図っていく過程で,上級生や同学年の仲間から見てまねる機会が数多く用意されていることが大切である。
文化祭の展示や発表,クラス対抗の応援などは、白紙の状態からはそうよいものが生れてこない。先輩や仲間のものを見て,それに一つでも二つでも工夫をこらして創りあげていくことが大切となる。
そのような経験の積み重ねが伝統となり,次のものへと挑戦する意欲がわきあがってくる。
見てまねられるような場と資料を数多く準備してやることが,教師にとって大切な仕事となる。
(3)子供が試行錯誤できるゆとりを
現代の子供は,与えられた成功経験は多いが,失敗経験は少ない。そのため少しの失敗で挫折してしまうことが多いといわれている。
学校の中で,自らの意志で仲間と知恵を出し合い,失敗を繰り返しながら,工夫をこらしてよりよいものをつ<りあげていく経験は,まことに貴重なものと考えられる。彼らの活動をあたたかく見守り,励ましてやるゆとりが大切となろう。
参考文献
特別活動 (日本文化科学社)'81年10,11,12月号