福島県教育センター所報ふくしま No.56(S57/1982.6) -015/042page
いいかげんに実施しない方がよい
以上が治療法の主なものであるが,多くの人がおちいる誤りは,身体症状に強くとらわれ,その消失をめざしすぎる点にあるように思われる。症状が少し位残っていても,生活上の注意をしたり,(生活上の問題があるために症状が起こっていることが多い)服薬したり,自律訓練法をしたりしながら,症状をコントロールし,社会生活に復帰する,いわゆる社会的治癒(Stil1yable)の状態をめざすようにした方が,むしろ治療の近道になることが多いことを銘肝してほしい。
3. 自律訓練法
過敏性大腸症候群で,特に緊張が高かったり,長くなり,不安を強く持つ場合など,自律訓練法が奏効することが多いので,次にその概略をのべてみる。
自律訓練法は,シュルツ(ドイツ)が1932年に始めた自己催眠法の一つであり,(1)標準練習,1(2)黙想練習,(3)自律性修正法(特定器菅公式と意志訓練公式)と後にルーテ(ドイツ)が発展させた,(4)自律性中和法とからなるが,多くの場合標準練習をマスターすることで症状の軽快が見られる。それで不十分な場合は,生理変化を直接目標とした,特定器官公式を用いて目的を達しているが,ここでは標準練習についてだけのべる。
標準練習は,
(1)背景公式:気持ちがおちついている
(2)第1公式=重感練習:両腕・両脚が重たい
(3)第2公式=温感練習:両腕・両脚が温かい
(4)第3公式=心臓調整:心臓が静かに打っている
(5)第4公式=呼吸調整:楽に呼吸をしている
(6)第5公式=内臓調整:みぞおちのあたりが温かい
(7)第6公式=前頭部調整:ひたいが涼しい以上を静かに,毎日2〜3回実施し,第1公式をマスターしたら第2公式とすすめて,深いリラックス状態を作り出す,ものであるが,わたくしの経験では第2公式をマスターする頃には症状の軽減が見られることが多く,それが現れない場合は,練習の進め方を再検討して見る必要があるように思う。
4. 事例長期間下痢がとまらないA子
(1)概要
A子は高2で,三人姉妹の長女で,父は公務員,母は会社員である。高校入学間もなく下痢が始まり,すでに1年になる。その他に頭痛,腹痛,特に左下腹部痛,立ちくらみなどの不定愁訴症状があり,神経科その他2〜3の病院で診てもらったが,神経性下痢で,特別な器質的症患はないといわれている。
(2)心理検査
1.本人
○Y-G性格検査B型(不安定,積極型)特に,神経質で極めて主観的
○CMIIV領域で神経症的徴候が強い特に,憂うつ,自殺傾向,強迫観念が強い
○SRQ-D15点仮面うつ傾向あり
○親子関係診断テスト残酷でうるさく干渉する父と拒否的な母と感じているエゴグラムやさしく,周囲を気にしすぎ,合理的な判断がにがてである
2.母
○親子関係診断テスト現状に何の問題も感じておらず,子供を良く見ていない。父(夫)に対して強い不満をいだいている
○エゴグラム子供的自我が優位で,自己中心的であり,理性的判断がにがてである。
(3)診断と指導
人間関係に過度にとらわれ,それに満足が得られないために不安定になり,それをもとに形成された不定愁訴症状であり,母に家庭内の人間関係の改善に努力するよう指導するとともに,本人には症状に強くとらわれない生活をするよう説得すると同時に,緊張を緩和するために自律訓練法,標準練習を指導した。
本人が大変熱心に練習にとり組んだ結果,4週目から症状も寛解し、それにつれて生活が積極的になり,人間関係も改善され良い方向に向かった。この間,医者の薬物療法も受けさせるようにした。
参考文献
心身医学 石川中 (東大) 国際医書出版
心身医学 鈴木仁一 (東北大) 新興医学出版
思春期内科 森崇 NHK
自律訓練法と心身症 佐々木雄二 外医歯薬出版