福島県教育センター所報ふくしま No.56(S57/1982.6) -023/042page
随想
「子供所得白書」
経営研究係長 須 永 英 次
去る5月5日,こどもの日の福島民報コラム欄に,日本生命が全国の幼稚園児,小・中学生3840人を対象に調査した「現代っ子のサイフ事情一子供所得白書」に関する記事が掲載されていた。
「・・・・毎月の小遣いとお年玉を合計した年間所得は平均37,000円,3年前に比較すると21%の伸び率である。特に,中学生に限ってみると年間所得54,755円29.7%の抜群の伸びをみせ,逆に貯蓄は子供の全平均を大きく下回っている。これらのことは子供市場のターゲットは中学生であることを示すと同時に,難しい年ごろの子に対する親の甘やかしがみられはしないか。きょう5日はこどもの日。わが子の健康な成長を願うにはなにが一番大切なのか,足元から考える日としたい。」
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日曜や祝日になるときまって,道路向かいの木ビーショップの前には,早朝より多勢の小・中学生の群がりがみられる。大きなブームをまきおこした「ガンダム」をはじめとするプラモデルや高価な釣具を求めて集まる子供たちである。子供所得白書にみられる子供の現実の姿なのかもしれない。
私たち子供の時代は金銭的にはたしかに貧しかった。毎日自由に使える小遣いをもらえるというような人は滅多になかったようだし・他家の人より時にいただいた小遣いすら,すぐ母親に預ってもらったものだった。だから,年に1度の祭礼などにもらうわずかの小遣いに,子供心をときめかしたのであろう。そのような生活のなかで育った故に,お金を大事に使おうとする心,欲しくともがまんする心,物を大切にする習慣が,幼い時から自然に育くまれてきたように思える。本などもなかなか買ってもらえぬ事情にあったからこそ,本へのあこがれも強く,買ってもらった本を大事にしたのではないか。やっと手にいれた本だからこそ,いっそう心をいれて読みひたり,友だちにもその感激・喜びを分かち合う態度が作られたとはいえないだろうか。豊かに本を与えられる境遇にある現在の子供たちの読書生活と比ぺて大きな違いがあるような気がする。
私は,生活におけるマイナスの条件がそのまま人間形成の上にマイナスの要素となるとは考えない。むしろ逆の場合が多いのではないかとさえ思っている。親のない子はいっそう切実に親の有難さを実感しているだろうし,病気の体験をもつ子は人並以上に健康の大切さがわかるように,貧しさ,乏しさの境遇に育った子には,少しぐらい苦しくとも頑張りぬく態度,欲しければ自分で努力して求める態度,与えられれば素直に感謝する心,物や金のほんとうの値うちを考えて使う態度が育てられていくような気がする。
都会といわず農村といわず,いまの子供たちは欲しいものは,むしろ必要以上に華美に与えられ,常にいくらかの金を身につけている。このような一見豊かそうに見える生活の中では,困苦欠乏にじっと耐える意志や不屈な生活態度,あるいはしみじみと他を思いやる心情などは育たないのではないかと心配するのである。
コラム欄の呼びかけではないが,いまの子供たちに必要なのは貧しさの環境ではないだろうか。親はこのような貧しさ・乏しさの生活場面を意識的に与えてやらなければならないのではないかと思う。人間としてもっとも大切なものを,子供の時から大切に見守り,大切に育てていくためにも。
健全な趣味とは思いつつも,1本何千円もするグラスファイバーの釣竿を求めて,ボビーショップを去って行く子供を見ながら,ふと,細竹を切り,手製の釣竿を作って,裏の小川で釣をした子供のころを回想した。