福島県教育センター所報ふくしま No.57(S57/1982.8) -004/038page

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図 7 インパチエンスの維管束 図 8 インパチエンスの維管束
図 7.8 インパチエンスの維管束

がよく観察できる。
茎は,大変やわらかく,どの部分でも安全カミソリの刃などで切りやすい。横断切片で,水液上昇路となる道管が確認できる。双子葉茎の維管束が,環状に配列した真正中心柱の構造がよくわかる。縦断切片では,環紋道管やらせん紋道管などのつくりが,はっきりと観察できる。

   花のつくりを調べていくと,生徒はおしべの花粉の存在に関心を示す。美しい色や形,大きさの変化を見せて咲いた花も,ごく短かい期間に生殖のいとなみを果たして,散ってしまう。短かい花のいのちの中で,花粉は雄花の性質を子孫に伝える役目をもつ生殖細胞である。
 花粉や,花粉の発芽などは,生徒に是非検鏡させたい教材である。
 花粉はそのまま検鏡させてもよいが,グリセリンゼリーの中に保存しておくと便利である。数種の花粉をこの中にまぜておくと,1枚のプレパラートの,同じ視野の中で,比較もできる。花期でない時など一度に視察させることもできる。

     <グリセリンゼリー>
  1. ビーカーに粉末ゼラチン10g,水道水200mlを加え,1〜2時間放置し,粉末ゼラチンに十分吸水させる。
  2. 粉末ゼラチン上の余分な水を捨て,加熱しながら,ガラス棒でかきまぜる。
  3. まだ熱いうちに,1〜1.5倍量のグリセリンを加えてよくかきまぜる。
  4. 2%石炭酸を1〜2滴加えてかきまぜる。
  5. 広口ビンや,35ミリフィルムケースなどに入れ,ラベルをはって貯えておく。
  6. グリセリンゼリーは,通常は固まっているので用いる時は湯せん(30〜40℃)して溶かして用いる。
 花粉の発芽と花粉管の伸長を観察させる。
 発芽を観察するには培養基を用いる。水100mlにショ糖8〜10g,粉末寒天1〜2gを加えてゆっくり加熱し,3〜5分間煮沸する。ショ糖寒天液が固まらないうちに,スライドガラス上に流し,そのまま冷やし,固まったらスパチュラやスライドガラスなどで,1〜1.5cm角ぐらいに切る。ショ糖は,発芽する時の浸透度調節のためで,花粉に栄養をあたえるためのものではない。寒天板の上に,インパチエンスの柱頭を先に出し,寒天坂上に先端をふれて,花粉をまく。花粉管の伸びていくのを観察するのに便利なように,直線上にまくのもよい。花粉の発芽はインパチエンスでは,比較的早く,まいてから3〜5分ぐらいなので,発芽や伸びていく様子が観察できる。花粉の発芽は,種類や培養基の濃度,温度などで異なる。15〜20分ぐらいかかるものもあるので,シャーレの底に,しめらせたろ紙をおき,マッチの軸木を枕にしてスライドガラスを置く,乾燥しないように,シャーレのふたをしておき,随時とり出して発芽の様子を検鏡するとよい。
 花粉管が伸びてきたら,高倍率(400〜600倍)にして,原形質流動を観察する。
 ホウセンカも,観察材料としてよく,花粉をまいて2〜3分位で発芽し,花粉管の伸びも始めの10分間ぐらいに大きく伸びる。花粉管の伸長を,実感としてとらえられるよい教材である。
 さきにあげたムラサキツユクサも,花期が比較的長いので,花粉教材としても使える。ショ糖濃度の範囲も広く,また原形質流動の状態がよく観察できる。

4 おわりに

 植物教材の利用については,各々の地域で学校園・教材園などをうまく使い,生徒の観察・実験に役立つよう管理され,有効に使用されていると思う。ここにとりあげた植物なども,すでに現場では取扱っているところもあると思うが,とりあげかたや扱い方によっては,いろいろな利用面がある。
 またこの他に,もっとよい材料が利用されずに,自然の中にふくまれているかも知れない。身近な自然から,誰にでも利用できる教材を探してみたいものである。


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