福島県教育センター所報ふくしま No.57(S57/1982.8) -010/038page
教育相談
バウム・テスト(樹木画テスト)による心の投影
教育相談部 佐藤 晃暢
1 はじめに
バウム・テストは「実のなる木を一本かいて下さい」という簡単な指示によって行われる投影法の中でも描画法に属する人格検査の一種である。
このテストは,ア 被検者がテストに対する偏見をもたない。イ 非言語性の検査であるため,言語能力の乏しい幼児からでも実施可能である。ウ 実施が容易であることなどから,最近臨床場面や教育場面などで多く用いられ注目されている。
しかし,実施が容易である反面,木の型をみる形態分析,運筆・筆圧をみる動態分析,空間配置をみる空間象徴の三側面から総合的に解釈せねばならずそのためにも,数多くの樹木画に触れ,主観的解釈におちいらないよう注意するとともに,他の性格検査等の併用を試みる必要があるといわれている。
ここでは,グループをつくり,同じ非行を行なっていた生徒のバウム・テストにみられる特徴の違いから非行に至った心理的な背景を探ることにする。2 バウム・テストについて
木をかかせて,その絵をその人のひととなりの表現とみなす着想は,エミール・ユッカー(E.Jucker)によってはじめて提唱された。1942年にコッホ(K.Kock)によってドイツ語版,1952年に英語版による「バウム・テスト」が出版されてから投影法の心理テストとして注目されるようになったものである。
このテストは,統一した条件で実施するため,画用紙の大きさは(A4版規格210mm×297mm)特定されるが,その他は,形・木の種類・紙面の使い方などすべて被検者が自由に考えてかいてよい。また,指示にある「実のなる本」といっても,実をかくことを特別に誘導することでも,禁止することでもない。(1) 形態分析
形態の吟味,検討にあたっては,診断表により,該当項目のチェックを行うが,特にチェックする場合は,・幹,・樹冠部,・樹皮,・根,・地平線について次の点に留意してみることが大切である。
〔幹〕
- 一線幹か二線幹か
- 基部のふくらみ
- 幹の幅と長さ
- 幹の上端処理
- 平行幹,斜幹,曲幹のいずれか
- 幹の模様の有無
- 幹輪郭線
- 切株,ひこばえ,節穴などの有無
〔樹冠部〕
- 一線枝か二線枝か
- 枝の方向
- 枝の優勢方位
- 開放幹の有無
- 枝の先端処理
- 樹冠の大きさと型
- 樹冠の輪郭線
- 枝,樹冠への陰影
- 実,葉,花の有無
- 空間倒置の有無
〔地平線〕
- 地平線の有無と位置
- かたむき
〔根〕
- 根の有無
- 根の型と長さ
- 張りぐあい
(2) 動態分析
同じ形態の樹木であっても,かく人の鉛筆の動きによって,運筆,筆圧,力のリズムなどは異なる。これらのことで,感情と意志の優位性,興奮性の高・低,直観性と直視力のバランスなどをとらえることが可能である。(3) 空間象徴
かかれた樹木が紙面のどの領域に定位されるかで上図のような被検者の生活の場におけるあり方や,エネルギーの存在が解釈される。したがって,どの位置に,どの程度の大きさでかかれているかをとらえる必要がある。