福島県教育センター所報ふくしま No.57(S57/1982.8) -011/038page

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3 事例

 A男,B夫は出身中学校が同じで中学校時代から先輩や有職少年とのつき合いがあり,そこでシンナー吸引や,喫煙,飲酒,無断外泊等をくりかえしていた。K高校へ入学後も同クラスになり,家庭や学校に対する不満,不適応から同じ問題をおこし,警察の補導も受けていたが,生活態度が改善されないということで来所したケースである。二人に実施した性格検査や問題性予測検査検査結果からは,ほぼ同じような問題やデ一夕が得られたが B夫にくらべて A男は,性格因子,DATにおける問題領域にやや多くの問題が認められる。だが,この二人が描いたバウム・テストにおける樹木画では,質問紙法ではとらえられない大きな違いと,A男のもつ心理的な外傷体験が明確に浮きぼりにされた。

● Y−G 性格検査
○ A男
 判定型 − D' 型
・ 衝動傾向大で,考え方も軽卒,対人接触を好み,その中で顕示欲や承認欲求を満たそうとする。
  ○ B夫
 判定型 − D' 型
・ 考え方が雑把で軽率な行動をとる。衝動傾向があり,自分を正しくコントロールできない

● DAT(問題性予測検査)
○ A男
・ ASS 得点 118(A)
・ 家庭不適応(A)
・ 学校不適応(B)
・ 性格(意志)(感情)(思考)いずれも(B)
・ 規範逸脱性(A)
○ B夫
・ ASS 得点 106(A)
・ 家庭不適応(A)
・ 性格(感情)(B)
・ 規範逸脱性(A)
※ ASS 得点 = 反社会的問題傾向得点
※(A)危険性大のランク,(B)危険性やや大を表わす。

(1) 形態からみた違い
A男の絵 B夫の絵
 A男の特徴的な部分は,幹の表面処理にきめの荒いしみが認められることである。幹の表面は,外界との接触面であり本人がもつ心理的環境における摩擦感と心理的外傷体験が強いことを意味し,道徳的非難に対する保身,防衛の傾向を示唆している。根元の右側のふくらみは外界への警戒と不信感,左の垂れ下った枝は他からの影響を受けやすい心の弱さ,弓状の地平線から本人が抱いている孤独感と保護してくれる女性的なやさしさを求めていることがわかる。このことは,きき出しにおいてわかった家族関係の問題とかかわっている(父母離婚,父家出,その後母と同居)これに対して B夫の特徴は,数本の前方に突出した枝から本人のわがままな性格や,鋭く槍のようにかかれた枝から敵意や攻撃性がみとめられるなど枝に特徴がみられることである。さらに,顕示欲求や,外見を飾りたいという欲求が葉に投影され,筆圧においても,威圧で,外界の圧力から自分を守り孤独を保とうとする強がりを指摘することができる。拒否的で厳格な親への反抗ともよみとれる。

(2) 空間位置からみた違い
空間位置からみた違い
    ※縮尺1/3
 A男は紙面の左下におさまる小さな木をかき,幼児期の愛情にみちた生活を願い,退行と退縮の状態にある。B夫はやや自我肥大型に近く,外界からの圧力を強く感じて自己防衛を強化する投影ともみられる。内部には豊かなエネルギーを持っているものと考えられる。


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