福島県教育センター所報ふくしま No.58(S57/1982.10) -010/038page

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教育相談

情緒障害児にみられるHFD(人物画)の解釈
 = 場面緘黙児K子の事例から =

教育相談部  五十嵐 昭義

1 はじめに

 子供がHFD(人物画)を描くとき,絵の中に心理状態が無意識に投影される。投影された心理状態を解釈し,それをもとに子供の変容をみていきたいと思う。ここであげる事例は,場面緘黙児の例である。

2 HFD(人物画)とは

 HFDに関する研究は長い歴史があり,(1885年以後)いろいろな角度から研究されている。そのひとつは,知能検査として知的水準を知るものと,もうひとつは,性格検査として性格傾向を知るものとに分けられる。前者は,ダットイナフやハリスが代表としてあげられ,後者は,マコーバーやレヴィなどがあげられる。その後,コピッツによって総合的包括的にまとめられ今日に至っている。ここでは,コピッツの研究をもとに事例をあげながら述べていきたいと思う。

 HFDについて要約してみると

  1. 子供の人物画には,そのときの子供の心理状態が投影される。たとえば,子供に緊張と心身の悩みがひそんでいるとき,子供は,「密着した両脚の人物を描く」という形でその状態を投影する。
  2. 描かれた人物は,その時点で最も関心があり,重要な人物である。多くの場合は,その人とのかかわりの中に心理的な事由があるものと思われる。たとえば,母親をこと細かに描いたとすれば,その子は,母親との関係に強く心をひかれているわけでこの時点で最も関心のある人物であると言える。
  3. 子供は,HFDの中で何かを語っていることである。たとえば,絵の中に人物の動作が描かれているときなどは,動作を通して実現したい願望や欲求が投影されているのであり,動作が描かれていない絵でも描き方にこれらが投影されていることが多いようである。
 HFDを描かせる場合の留意点は,
(1) 基本的には,個人検査がのぞましい。
(2) 描かせる絵は,男・女いずれの性の人物画でもよい。
(3) 約21.6cm × 27.9cmの白紙と少しこいめの鉛筆(B〜2B程度)と消しゴムを用意する。
(4) 「この紙に人を一人だけかいてください」「頭の先から,足の先まで全部かいてください。」と指示する。

3 場面緘黙児K子の事例

(1) 概要
 本事例は小学校3年生の女子で,両親と弟二人の五人家族である。K子は,幼稚園に入った頃から幼稚園では話をしなくなり現在に及んでいる。知能は「平均知」である。家では話すことができるのに学校では一切話しをしないので.学校から紹介され,昭和56年6月9日に来所した。週一回の面接指導を実施し同年11月10日終了した。

(2) 診断及び指導方針 HFDの結果は次の通りである。(コピッツ法)

 以上のことやカウンセリングから心因性場面緘黙症と思われる。従って指導方針は,
  1. 遊戯療法で態度の変容と言語表現を引き出すようにする。
  2. 家庭における養育態度を改善させる。
  3. 学校では積極的に行動できるようにする。

(3) 指導経過( HFDの変化から変容をみる)

  1. 6月9日
    ア HFDの総合解釈
     HFDでも明らかなように,精神的な不安定が対人関係を不自然にしている。そのため,学校の友達や先生に対して緊張感を持っているものと思われる。
     短い腕がみられることから恥かしがりやで引っ込み思案の傾向がでている。このことから,本人の状


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