福島県教育センター所報ふくしま No.60(S58/1983.02) -002/038page
小学校教材
小学校中学年の絵画指導
−表現の技術・技法を中心に− 教科教育部 田 中 四 郎
1 はじめに
当センターにおける昭和57年度小学校図画工作講座の「図画工作科指導上の諸問題」の協議において参加された先生方から,多くの問題が提起された。中でも,下記のような「中学年の絵画表現」をめぐる問題について,特に熱心に論議が交わされたことが注目される。
・ パターン化した形や色から抜け出せない,いわゆる概念的表現をする児童がかなり多い。
・ 彩色の段階になると,児童の筆は止まってしまい,明らかに,彩色に対する抵抗が見られる。
・ 個性が乏しく,画一的で感動のない絵が多く見られる。
・ 「絵をかくのがきらいだ」という児童が3年・ 4年と進むにしたがって多くなり,その理由の一 つに,「形が思うようにかけない」,「色が思うように出せない」といった技法上の問題がある。確かに,低学年のときは,みずみずしく,動きのある,色彩の豊かな楽しい絵画表現をしていた児童が,中学年になると,ぎこちない,おもしろみの乏しい,単調な色彩の絵しかかけなくなる場合も多くなるとよく耳にするところである。
このような,中学年の絵画表現の停滞は,小学校図画工作指導内容の「表現と鑑賞」のうち,表現における大きな分野がかけることになり,このことが大きな問題だと言える。
なぜならば,小学校指導書図画工作編に述べられているように,小学校図画工作の教育は,創造的な表現活動に意義があり,表現の喜びを味わわせることを第一の目標としているからである。
したがって,中学年は,高学年への橋渡しとして大切な時期でもあるので,このような中学年の絵画表現に見られるつまずきについて,少しでも解決の糸口になればと思い,絵画表現の技術,技法上に関する指導の在り方について述べることにする。
2 中学年の絵画表現のつまずきとその原因
中学年には,幼児期に見られる自己中心的で,しかも興味本位の衝動的な一面を残しながら,その反面,大人のような,見方・考え方もめばえてくる。
また,この時期の絵画表現に見られる特徴は,まだまだ,技術.技法は素朴であるが,意識的には,画面効果を考えてかくようになるなど,描画の活動がさかんになるので,絵画表現がかなり安定してくる時期であると言える。そして,この時期の児童は,物の大小の関係や,空間の遠近感は,十分に表現できないが,羅列的表現傾向から,しだいに重なりのある表現ができるようになり,客勧的,写実的な描画の傾向が見られるようになる。つまり,実物に似せて再現しようとする写実的な表現にあこがれを持つ時期である。児童は,実物にたよろうとし,その表現が実物に似ると満足し,喜びを感じることができる。
しかし,鑑賞力や知的な発達に比べ,表現技術,技法が伴わないために,見えたままの表現ができないのである。そのため,「自分は絵はかけない」という劣等感を抱きはじめる。このように,絵画表現に興味・関心がうすれ,積極性を欠き,工夫することもなく,単に友だちの絵を模倣したりするため,概念的な表現から抜け出せない児童が多くなり始める。ここに,つまずきの大きな原因の一つがあると考えられる。
いわゆる「絵ぎらい」を起し始めた児童の主なる理由に,形が思うようにかけない,色が思うように出せない,といった技法上の問題を上げていることと一致するのである。そうなると,もうそこには,中学年の描画活動がさかんな時期の特徴とは逆行して,豊かな色彩や個性のない,画一的な感動のない表現しか残らなくなってしまうと考えられる。