福島県教育センター所報ふくしま No.60(S58/1983.02) -003/038page
3.中学年の絵画表現に見られるつまずきと,解決の手だて
この時期の児童が,絵画表現に示す抵抗感,彩色に対し戸惑いを示すことや,児童画に見られる画一的な表現,パターン化した形や色の表現などの絵画表現に見られるつまずきの大きな原因の一つは,この時期の児童の絵画表現に示す欲求に対して,それを満たす表現をするだけの表現技術,技法が身についていないことから,自分の表現に対し満足感が得られず意欲を失うことにあると考えられる。
そこで,そのつまずきを解決するためには,児童の発達段階に合わせ,喜びながらかき,かいて遊んだという子どもの絵の良さが失われることのないよう無理なく,形や色の表現技術,技法を高めるための手だてを講ずる必要があると考える。
その解決策として,つまずきの原因に即して整理すると次の三つが考えられる。
(1) 感受性や直観力を豊かにさせるため,日ごろから「自然の観察を深める」手だてを講じる。
(2) 表現に自信を持たせるため,「形・色の表現技術,技法を高める」手だてを講じる。
(3) 個性的表現の大切さを理解させるため,児童の作品をもとに,それぞれの作品の良さを感じ取らせるような「鑑賞を深めさせる」手だてを講じる。ここで注意しなければならないことは,児童が楽しみながら表現できるよう配慮をすることと,用具の扱い方や,絵画表現をさせる上での約束ごとは,しっかり守らせるような指導をすることである。
4.中学年の絵画表現指導上における留意点
(1)自然の観察を深めさせるために
既成品のがん具で遊んだり,テレビにひたっている児童には,自然の観察を深めさせる機会を多くし,そのことによって,自然のつくり出す形や色の美しさに気づかせ直観力を育てることによって,自から発見し,工夫して表現する積極性が生まれてくるであろう。その積極的な態度が,造形活動の基礎を担うものであると考える。さて,観察を深める手だてとして,次のようなことが考えられる。
1 機会を捕らえ,空や雲などの美しさについて話し合わせる。
2 自然物の形をじっくりと線ができ描写させる。
3 自然物の色をできるだけその物に近づけるよう描写させる。
このような観察を通し,自然の美しさを感じ取らせ,発見したこと,感じたことについて話し合わせる。そこから,想像力を豊かに育てる。(2)形・色の表現技法を高めるために
1 形の表現
ア.素描の指導
・線の表現練習をさせ,その性質に気づかせる。
・対象物の位置と視点の置き方について,配慮して,物の形を正しくみさせる練習をさせる。
・描く対象物により,描画用具を使いわけ,用具の違いによる変化に気づかせる。
イ.形をかかせる手順
・紙に形を指先でなぞらせる。
・おおよその形をかすかに線が見える程度にかかせる。このとき,鉛筆は先から遠い部分を持たせ,ゆっくりと線はつないでかかせる。
・前の段階の形のまずいところをなおさせる。
・前の段階で,できた形をめやすに,再度,対象物をしっかり見て,線に強弱を持たせ,できるだけ線をつなげてかかせる。消しゴムは,使用させない。
ウ.人物観察のポイント
・立っている人と,かがんだ人の姿勢の違いを友だちをモデルにして観察させる。
・横向きで体を前や後ろに曲げた姿勢のときの背中の曲がりと,頭と腰の位置を観察させる。
・体のねじれ,傾き,動きに目を向けさせ,それに伴い,頭・手・足の位置を観察させる。
このさい,1組2人〜3人で,好天のとき,野外でいろいろなポーズの影をつくり合い,それを地面や紙にかいて遊ばせることで,動きのある形に慣れさせることなども効果的であろう。2 色の表現
ア.楽しませながら,色彩の興味,関心を高めるため,次のような「絵の具遊び」をさせる。