福島県教育センター所報ふくしま No.61(S58/1983.06) -004/042page

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ところで,この学力であるが,山田栄博士によれば,学力には,知的学力,技能的学,情意的学力を考えなければならないとされる。これらが総合一体となって,人間形成に不可欠にかかわるわけであるが,一般に知的学力,技能的学力が学力とよばれ,情意的学力は,うとんじられる傾向がある。ここに博士の説を引用して,いかに人間形成にとって重要であるかを確認しようと思う。紙幅の都合上要約的に引用することを許されたい。

 情意的学力は,学習する態度にかかわって習得される。たとえば自主性・根気強さ・創意工夫・協力性・社会性・責任性・寛容・公正さ等々である。
 ところでこの学力は,人間の「性格・行動」に所属すると考えられる。この学力のあり方は,人物評価の指標・基準となるものである。(注)
簡略化しすぎたが,骨子は読み取っていただけると思う。今日,情意的学力か一般にはなはだ不十分と言ったら言いすぎであろうか。

  4 学習と人間のかかわりを粗描してきて最後に述べておきたいことは,学力が人間形成にのぞましいかかわりを発揮するには,人間の良心のはたらきが明晰でなければならないということである。人間がよりよく自らを形成する方向は,良心の超越性のみちびきによるものでなければならない。自己を創造的に形成するその方向が良心の審判に堪えるのでなければならないのである。このことを欠落せしめているならば,学習の人間における意味は,正しく充足されることはないであろう。

  5 このようにして人間は,いのちの限り学習して自らを高めていく存在,生涯学習にいそしむ存在でなければならない。この意味において,人間はまさにホモ・ディスケーンス(homo dis cens)(学習人)なのである。

(3)学習についての教育的配慮
 これは,ひとりひとりが,学習の人間における意味を充たすことができるように配慮することである。学習の人間における意味とは,学習が人間の形成において果す役割と言ってもよいことである。意味を充たすとは,その役割を十分に果していくことである。それには,学力をたしかなものにし,人間にふさわしくそれを発動させなくてならない。教育に当るものは,このことがよく実現するようにみちびくのである。これは,教育の方法機能としての学習指導が中心となって行われることである。学習指導については,すでに2回ほど述べているので省略することとするが,人間の学習は本来能動的・積極的なものであること,そうでないならその理由を検索して治療しなければならないこと,過去の経験の集積がものをいうこと,学力として結果しなければ,学習が成立したとは言えないこと,ひとりひとりをなどと標語めいて言うのでなくて,真にひとりひとりのあり方に即した指導の手だてを施すこと等を強調するにとどめる。

 2 人間形成に対する今日的要請
 これは広範な問題であるが,学校における学習状況に限定して,しかも紙幅の状態からメモ風に述べることにとどめざるをえない。

(1)人間形成は,本来自己形成の助成としてあるべきであり,自己形成のための学習はこれまた本来自発的意図的学習でなければならない。しかしながら学校の学習は,、山下氏によれば(前出教育心理学)課せられた学習である。これはこれで十分意味のあることなのだが,われわれは,この課せられた学習を如何にして自発的意図的学習に転じ 自己形成を正しく推進させるかの工夫と努力がもとめられている。このことに実践をもって答えなければならない。

(2) とくに,情意的学力の向上に努めることが一般的に要請される。これには,教師自らの情意的学力を謙虚に省みる必要がある。

(3)どの子にも効力感を育てることを通して自己形成にその子なりの自信をもたせることである。(効力感については,中公新書,無気力の心理学等によってお互い学習をふかめたい。)

(4) 自己形成は,正しい自己評価によるべきである。この研究と実践は,いまだ十分とはいわれない。このことも当面する課題でなかろうか。

(5)体験的学習とか,合理的学習とか,創意ある教育活動とか,今次教育課程改善にまつわる特色ある提言が,その真意をあやまれば,学校の学習状況を混乱させ,人間形成にひずみを生じさせるだろうことを十分警戒しなくてならない。その憂いなしとしない。筆者の杞憂(きゆう)であれば幸いである。

(6)学校における正しい人間の学習が進展し,社会をして,世にいう学歴社会ならぬ真実の学習社会たらしめることでなければならない。(58.5.5)
注,山田栄,人間形成の教育と学力の問題(私学教育研究所)


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