福島県教育センター所報ふくしま No.61(S58/1983.06) -014/042page

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教 育 相 談

心 を 病(や)む か ら だ II

−過呼吸症候群−

教育相談部  鴫 原   弥

1 はじめに
 学校不適応で,来所相談する中・高校生には,過呼吸症候群を主訴とするものがある。
 特に女子に多く,かつ近年増加しつ、ある疾患の一つである。文献的には,男性,女性の比率は1:20といわれ,中学3年頃から,大学4年頃の女子に圧倒的に多いといわれている。
 この疾患は,突然に,かなり激しい症状を示すので,周囲がかなり混乱することか多いのが,ここでは症状,取扱い等について述べて参考にしたい。

2 症 状
 心身の興奮に引き続き次々と身体症状が現れるが主たる症状は,息切れ,深く激しい呼吸,胸部の重圧感,四肢,顔面,特に口辺のしびれ感,めまい,意識混濁,さらに進むと,手足のテタニー,全身のけいれん,意識の喪失をおこす。

 心理的には,強い不安や恐怖をうったえ,特に「うまく呼吸ができない」「いくら呼吸しようとしても肺に入らない」「胸のところに空気がつかえている」など,呼吸に関するものが多いが,周囲の状況にかなりデリケートに反応するので,不安をかきたてないように注意しなければならない。

 この症状のきっかけとして一番多いのは,体育の時間などで激しい運動をしたとき,次に授業中いつもより強く緊張したら突然過呼吸になり発作が生じたというものである。

 いったん発作を起こし,強い不安を経験すると,そのまま放置されれば,発作の回数が増加し,更に,発作に対する強い予期不安をいだくようになり,ほんの少しの刺激で発作が誘発されるようになり,これがいっそう不安をかきたてるといった悪循環が形成され,症状の持続発展をおこすことになりやすい。発作の持続時間は,30〜60分のものが多いが,中には2時間にも及んだものが報告されており,持続時間の長いことがテンカンと比べたときの特徴ともいえる。

3 発生の原因(発生機転)
 生理的には,異常に速く,深い呼吸をすることで血液中の炭酸ガスを過度に排出したために,血中の炭酸ガス分圧が下りすぎ,呼吸性アルカリロージスの状態となり,発作が生じると考えられているが,実験的に健康な人に過呼吸をさせ,血中のCO2分圧を低下させても,不安をともなった発作は出現しないといわれており,過呼吸症候群には特有の生理,心理学的背景の存在を感じさせる。
1 すでに慢性的に呼吸性アルカリロージスに近い状態にあり,わずかな過呼吸で症状がでるのではないか。
2 血液ガスの変動に過敏で,それと過呼吸の習慣が何らかの形で関連をもつようになって いるのではないか。
心理的には,普段から神経症的傾向の強い人が多く,特にヒステリーと不安神経症の傾向が強いといわれている。

 したがって,物事に対しては,きちっとした判断をすることができず,両価性(ambivalence)的な気持を持っており,あることをしてみたいが,何かの理由があってしたくないとか,ぜひみたい,でも何かの理由で,みてはならない,みたくないというもので,その両方が同じ価値を持っているために強い葛藤が生じている。

 また,人が感じる以上の強い罪悪感を持っていることもあり,友達が盗みをするのを見てしまいそれを先生に話すのは悪いし,話さないのは自分が盗みをしたようで更に悪いと思い,それを罪悪視しすぎることなどがある。

 これは,幼少期から母性的な家族形態の中で育ち父親の役割が十分でないために,男性的強さが育たず,自己決定の必要な場面で,不安と,時に恐怖が生じ決断のできにくい人格を持つようになったためと考えられる。

 自己決断の必要な場面になると,決断ができず,どうしていいのかわからなくなり,思いまどった結果,絶望的になり,呼吸困難という罪を自分に加え決断できないことを合理化しているのである。

 過呼吸症状を示す子供には,特に思春期症状にくわしい医師の診断により,他の同様の症状を起こす疾患と区別して指導を始めるのが良いと考えている。


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