福島県教育センター所報ふくしま No.61(S58/1983.06) -015/042page

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4 治 療(指導)
 発作が起きているときは,できるだけ周囲の刺激をなくし,静かに,胸を楽にして安静にしておくのが効果的で,呼吸が苦しそうだからといって背中をさすったり,いろいろとことばをかけたりしない方が良いようである。いずれにしても,非常に刺激に敏感になっていることを知っておく必要があろう。

 過呼吸症候群の専門的治療については,Lazarus,H.R.&Kostan,J.J.らは,1 てっていした検査2 機能的疾患であることの保証3 症状成立の機転の説明4 症状の誘因の発見5 検査成績をもとにした保証6 不安と症状の悪循環の証明7 4でわかった誘因についての話合い8 性格的歪みがないか確かめる9 性格的歪みが強い場合は専門家(医)にまわす10 トランキライザーの使用11 ケースワーク的な接近の11項目をあげているが,要約すれば,まず誘因を発見し,その不安条件づけを脱感作的処置により除くと共に素因になっている性格的な問題,例えば,両価性的な思考法の否定,男性的な強さ(女性であっても)判断力などが身につくよう援助する必要がある。

5 入学式で緊張し,その直後に発作を経験したA子(高1)の指導
(1) 概 要
 A子は二人姉妹の長女で,祖母に育てられ,本人はもちろん,家族全員の期待をになって高校に入学した。入学式の前夜は,家族全員から大いにはげまされ,祝福された。当日は普段より早く起き,準備に気をつかい何度も持ち物の点検をし,母と共に父の自動車で登校した。入学式終了直後,胸が苦しい,呼吸ができないと訴え四肢のけいれん発作を起こし,救急車ではこばれた。その後の検査の結果,過呼吸症候群であることがわかった。

(2) 家族の状況
 ・父 会社づとめであるが,中枢にいるために忙 しく,家にいることがすくない。家では特に自分を主張したりせず,おだやかである。
 ・母 趣味が多く,父の会社の中枢の人達の夫人とのつき合いが多く外出がちで,家にいるときも明るくはきはきしているが,家庭内の雑事は好きでないようである。
 ・妹 はきはきして活発で,友達が多く時々帰りが遅れたりして祖母を心配させている。
 ・祖母 夫を早くなくし,本人の父を女手一つで養育した人で,不平不満をいわず,家事と二人の孫のめんどうを見ており,この家庭の母親的役割の多くをになっていると考えられる。

(3) 本人の状況
 現在まで特に目立った病歴はなく,いつもおとなしく,目立たない,やさしい子である。突然の発作におどろき,とまどっている。
・ y−G性格検査  C型 安定適応消極型である が,神経質,主観的,思考的内向等の下位因子が チェックされる。
・CMI(Cornell Medical Index)
 身体的自覚症の得点は低いが,疲労度がやや高い。 精神的自覚症の得点はやや高く,特に不安と緊張 の得点が高い。
・GAT(不安傾向診断検査) 総不安傾向は大き くないが,学習不安傾向,対人不安傾向,衝動傾向等が大きい。

(4)両親の状況(親子関係診断検査・エゴグラム)
・父は甘やかし型の養育態度,すべてに理づめで自信家であるが,親としての自覚がたりない。従って家庭内における存在感が明確でない。
・母は放任型で矛盾の多い養育態度で,周囲を気にせずわがままで,きびしいところがある。従って家庭内でも,自分の気のむくままにふるまっている。

(5) 指導方針と指導
 上記のような両親に適切な援助を受けることもなく,祖母に養育され,あこがれの高校に入学したが家族からの期待も大きく,今後の学習や友達関係等に不安をいだき,緊張し,あこがれの高校に行かなければならない,でも不安が大きく行きたくないといった葛藤が強く存在していたものと考えられる。

 指導に当たっては,自律訓練法の練習により,当面の緊張を解消するとともに,カウンセリングを通じて,客観的なデータをもとに正しい判断ができるように指導した。両親に対しても家庭に対する責任などの話題で話合いをすすめ,週一回,約三か月の面接で症状が現れなくなった。

参考文献
思春期内科        森    崇  NHK
自律訓練法と心身症  佐々木雄二 医歯薬出版
交流分析と心身症    杉田  峰康 医歯薬出版


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