福島県教育センター所報ふくしま No.61(S58/1983.06) -016/042page

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生 徒 指 導

発達課題に即した生徒指導の一貫性
−小学校における「自立感」の育成

経営研究部   松 本 喜 男

1 はじめに
 最近における児童生徒の問題行動は低年齢化の傾向にあり,しかも多様化しているといわれている。 この対応にはいろいろあると考えられるが,坂本昇一氏は,「小・中・高の課題と指導の一貫性」のなかで,乳児期は「信頼感」,小学校では「自立感と活動性」,中学校では「活動性と自発性」,高校では「自発牲と自己同一性」がそれぞれの段階で着実に身につけなければならない課題であると述べている。この考え方に基づき小学校の生徒指導のあり方について述べたい。

2 問題行動にみられる性格特性と指導のあり方

 校内暴力生徒の性格特性(多肢選択)一部省略
順位 性格 順位 性格
耐性がない 76.9 自己顕示 61.2
わかまま 73.6 反抗的 58.0
衝動的 65.5 短  気 57.0
欲求不満 62.2 劣等感 56.7

 これは,昭和57年に総理府の行った調査結果の一部であり,この表でも明らかなように校内暴力を行っている生徒の性格特性は,耐性に欠け,わがままな性格であることを端的に表している。このような性格が形成される大きな原因の一つとして「自立感」が獲得されていないことがあげられよう。

 この性格特性は,非行や問題行動をもつ生徒にも共通する性格とみることができる。このような性格がいつ,どこでつくられるのか,それは少なくとも乳児期からの問題でもあり,子供をとりまく家庭・学校・社会を含めた生活環境全体に求められるものでもある。これらの指導は,入学以前は家庭が基本であり,入学以後は家庭と学校が一体となった指導でなければならない。しかし,今日見られる児童生徒の問題は,家庭における指導機能の低下が不満に耐えることのできないわがままな性格をつくる要因の一つと考えられる。このようにみた場合,小学校での生徒指導は,一貫した発達課題のながれとして家庭で達成されなかった課題を補正しながら,あらゆる教育の場に機能させ,自分で自分の欲望や感情をおさえることのできる子供に育てなければならない。青少年を含む中・高校生の問題も,その初発行動が小学校時代にみられるという指摘から考えても生徒指導はこの時期から始めなければならないといえる。

3 「自立感」を育成することの重要性
 自立とは,すでに周知のように他からの支配を受けずに自分の力で物事をやっていくことであり,幼児期からのつながりをもつ「自立感」の獲得は,小学校低学年での課題である。

 この「自立感」は,思いやりと強い意志を育てる基礎であると考えられている。したがって,その基礎である「自立感」を育てなければならない。

 例えば,特別活動における児童活動において,学習指導要領では,その内容の扱いで「児童活動については,教師の適切な指導の下に,特に児童の自発的,自治的な実践活動が展開されるよう配慮することが必要である。」と述べ,児童自身が行動することによって,自ら学んでいくという自立的な活動を強調している。このことは,前述の「自立感」の育成にも相通ずるものと考えられる。

 ともすると,活動の成果を期待するあまり,教師の助言や援助が多くなることがしばしばみられる。 そのため,自主的活動の自信や意欲を失わせ,自分たちでやり遂げたという喜びも減少させ,依存する心がいつまでも残ってしまう結果になるのである。

 したがって,多少の失敗やその予想があっても,直ちに干渉したり援助することを控え,見守ってやる配慮が大切である。これは,すべての教育活動においてもこのような配慮をすることによって「自立感」も育つのである。

4 おわりに
 「自立感」の育成は,子供の性格特性をつくりあげる大切な課題であり,小学校生徒指導の一つの視点である。そして,「自立感」を獲得した子供は,やる気の根源になるといわれている「活動性」へとすすむのである。


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